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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

青蒼の美 ―染付のうつわ

逸翁美術館で『青蒼の美 ―――染付のうつわ』展を見る。
最終日前日の夕方。
近いのでつい出遅れた。

わたしは陶器より磁器を愛している。
特に染付と青磁とを愛している。

今回の展示は主に明代のものとベトナム(安南)、江戸時代の伊万里・鍋島・永楽保全、デルフト窯、モスリムのうつわなどである。
絵画も数枚ある。北宋の趙昌に始まり川合玉堂まで。
いずれも夏にふさわしい絵画である。

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たとえば第一室には趙昌の『黄蜀葵図』がある。
これは桂宮家伝来品で、静かな美しさに満ちている。
白い花のその奥には薄いような臙脂色が匂っている。
その絵を眺めた目を『呉州蓮池端反鉢』に移す。
呉州(呉須)は薄い青色でやや灰色がかったものである。
その色の薄さは紗か絽を一枚かけたようにも見え、五百年の時代の差があるとは言え、共に静謐な心持になる。

心持。
これが大切なものだということを、この展覧会の中で深く悟ることが出来たのだが、まだそこへ入り込んだばかりである。
次々並ぶ作品に目を向けよう。

ベトナムの雑貨がここ数年なかなか流行っている。店先でうつわを眺めると、今出来のものでありながら、伝統を保ち続けているものに出会う。
安南染付は半磁器製で、白化粧をかけられている。その意味ではやや呉州にも似ているが、微妙な絵柄の差がある。
安南のうつわにはやはりアオザイや籐家具が似合うのだ。
不思議なものだ。

『安南月兎香合』 これは絵柄だけ見ればうさぎではなく・・・ぶたさんにしか見えない。へんな尻尾がついている。
同じく『渦文香合』はくりくりしている。
一方『唐草文平鉢』は元代の柄を手本にしたらしく、色合いの差さえなければ見分けがつかない。
政治と文化の交流を考えなければならない。

第二室には二枚の趙昌と応挙の三男・木下応受と吉村孝敬の絵がある。
この部屋は吹き抜け空間になっていて、綺麗なシャンデリアが飾られている。チェストがある。座ったことはないが。

趙昌の『レイシ図』ライチである。これは初見だが、なんだか見たことがある。・・・わかった。北斎の『お岩さん』の提灯なのだ。
あの提灯がお岩さんの顔になっている絵、それと垂れ下がるライチとがよく似ているのだ。

同じく『蓮池鴛鴦図』 白地に薄くぼかすようなピンクの蓮。鴛鴦は仲良くしているが、なぜか冠がない。中国の鴛鴦はそうなのか。

応受『唐美人』 父親譲りの絵の腕ということだが、画題もそう。二人の女が船に乗る。涼しい風が吹いているようだ。
髪飾りはそれぞれが黄薔薇と青薔薇。着物の藍色線が涼しさを深める。明代頃までの風俗に見える。

『採蓮図』 吉村孝敬はプライスコレクションで可愛い唐獅子ファミリーを描いていた絵師で、応挙十哲の一人。
ピンクの蓮がきれいで、そっと手を伸ばしたくなった。
蓮の魅力は深いものだと思う。


イスラーム、回教国。そこから来たコバルトを回青という。
この釉薬が来たことで、染付(青花)が飛躍的に濃くなった。
そこには『大明嘉靖年製』と刻まれている。
だからこの年号の官窯製品はみな、とても美しい青色を発成している。

『染付牧牛文鉢』 これは嘉靖辛酉とあることで1561年製の作だとわかる。牛に乗る人の帽子が風に飛ばされたり、のんびり草を食む牛と佇む人の姿もある。
『八仙人渡海文鉢』 八仙は蓬莱山に渡ろうとしている。一人一こま図。わたしが八仙を知ったのは水木しげるの『悪魔くん』からだった。
可愛かったのが『群童遊戯文入子鉢』 六客あるがどれもこれもらっきょに目鼻がついたようなちみっこたちが楽しそうに遊んでいる。可愛い。
ちょっと杉浦茂の破天荒なギャグマンガのキャラたちがいる構図のようだ。
しかし可愛いのに対抗するかのように不気味な福禄寿人形がついた瓶がある。
・・・四人の福禄寿のうち、一人だけ黒い福禄寿がいる。なんとなく、異様だ。元からなのか落剥からかはわからないが。

二階へ上がる。
ここには古染付が多い。
古染付とは17世紀頃の明の民窯で日本向けに作られた磁器のことである。
当初『染付南京』と呼ばれたが、やがて古染付と呼ばれるようになった。
だからこれらは日本人好みの形状と構図をとっている。
ところで回青(コバルト)とラピスラズリは別物である。同じくすばらしい青ではあるが。

『古染付魚藻見込双魚文茶鉢』 見込とは器の中の底のことらしい。そこに二匹のサカナがいる。可愛い。外側はシマシマである。
『火焔馬六角香合』 青い炎の馬だった。明を斃した清はマンダンツなので乗馬に秀でている。漢代には汗血馬を輸入している。
馬だけでいくらでも話がある。
『海老香合』 形を海老に取ったと言うが、なにやら鯉のようである。しかしこうした可愛らしさは日本人の嗜好にあう。欲しいな、と言う感じがある。

それから祥瑞がある。
わたしは祥瑞が好きだ。特に捻りが一番可愛いと思う。
ここに並ぶ作品を見ていると、家にあるそれを思い出す。

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これはなにかリスの親戚のようなイキモノのいる絵柄だが、小さくて可愛らしい香合である。掌に乗せて愛でたくなる。
日本人の特性、小さなものへの偏愛。

面白いのはサカナの背開き皿。可愛らしいが、この皿を実用に使うとなると何を乗せよう。ちょっと悩む。
また、青銅器の『尊』の形を模した瓶がある。これは花入れだが、私が実際に花を生けるとすると何の花を入れるか少し考える。
サカナといい尊といい、面白いが実際に使うことを考えるのはムツカシイ。

場所を移る。
蕪村、是真、竹田の絵がある。
オヤジが足を洗う『濯足万里流図』はどうも楽しくないが、へんなおじさんだからまーいいか、という感じがする。
明治になってから是真の描いた『洋盞蛍図』 きれいだった。青いグラスにそっと蛍が止まっている。こんなきれいなグラスに止まる蛍。
竹田の蟹の絵は沢蟹の行進に見える。指揮する蟹もいる。行進と言うよりもしかすると蟹のオーケストラかもしれない。

いよいよ日本の磁器へ。
永楽保全は逸翁や湯木などでたくさん見てきたので、三井記念館のコレクションをおろそかにしている。
保全の雲堂は特になじみ深く、どの作品を見ても安心するくらいだ。保全の描線は骨太さと繊細さが同居していて、染付はどれもこれも楽しい。
しかしわからない作品が一つあった。
『仙人文結文形向付』 富士山型の向付で見込に三人の仙人がいるのだが・・・ あっ!せんにん・もっといもんがた・むこうづけ ではなくて、せんにんもん・むすびぶみがた・むこうづけ なのか!
・・・しかしどちらにしても形は富士山型にしか見えない・・・

伊万里がある。
『藍釉瓢形徳利』 冒頭にあげた画像にある徳利。深い藍色メタリック。綺麗な色合い。くびれがなんとも艶かしい。
『水仙文縁透平皿』 縁の透かしはラセンコイル状で、笊の上に水仙が寝かされている、と言う絵柄である。凝った作りだった。

古染付開扇香合とそれを手本にした魯山人の香合が並ぶ。
きれいだと思った。魯山人は古陶の写しにもとてもよいものが多い。

『染付叭叭鳥香合』 この叭叭鳥、ユリカモメみたいに見える。ふっくらして可愛い。大体叭叭鳥は可愛いものだ。抱一のも大観のも、みんな可愛い。

そして昭和25年の茶会の再現がある。
逸翁美術館では必ずいつも茶会の再現がある。
お客が誰かは調べるとわかることだが、なんだかときめくようだ。
近代茶道中興の祖は益田鈍翁だが、その後に続くのが逸翁だった。逸翁は不昧公伝来の茶道具などを色々蒐集していたが、その一方でガラス鉢などもサラリと使う。
とてもモダンなセンスだと思う。
その中で玉子手の『槿花』という茶碗が可愛い。
この箱書きは小堀蓬雪だが、その字の愛らしさに「おおっ」となった。
こんな字で箱書きされると、中身まで可愛らしくなる。
逆か。可愛い茶碗だから可愛い文字が選ばれたのか。

新館へ行く。
こちらにはデルフト窯とイスラムのうつわがある。
逸翁は先に述べたように、東洋の古美術だけでなく西洋美術にも造詣が深い。だから茶席にもガラス鉢を使うセンスがあるのだ。

オランダ絵画の『陶器作り』というレンブラント風の絵があった。
窓から光が差し込み、暗い工房を照らし出す。
実のところわたしはこうした絵画はニガテなのだ。

イワン・アイヴァゾフスキーというロシアの画家による『月明の水都』
これはザンクト・ペテルブルグの港湾風景である。
何艘も船が繋留されていて、それらや強固な石造りの建物を月が照らし出している。
この都市はピョートルが作り出した人工の都市だと言うことを、改めて思い出した。
ロシアの絵画は時々不思議な空間を見せてくれる。
以前からそう思っていた。

デルフト窯の藍絵が多く並んでいる。
マックム窯で作られた『芙蓉手写鉢』のその絵を見たとき、正直に言うと青ボールペンで描いたのかと思った。
シェル石油のような貝殻形の鉢も可愛い。
中国や日本のうつわを手本にした作品も多いが、オランダ市民の楽しそうな図柄も多い。
かまぼこ型の目に出歯の龍が描かれていた。オブジェのような蓋物。
大体東洋の絵柄は西洋で写されると、妙に可愛くなる。
西洋のものを東洋で写すと・・・ まあ色々と。
マイセン窯のコバルト釉蓋物の摘みがイチゴだった。かわいいー。
どちらにしろ可愛い作品が多い。

イランの『白釉藍彩花文鉢』はエナメルのようにきれいだった。亡くなった加藤卓男がイスラーム陶磁器の再現などに熱心で、色々な作品を見た。
ここにも見込に魚の絵の作品がある。魚、三つ巴というより数珠繋ぎしている。
いちばん目を惹いたのは孔雀の羽をいっぱい集めたような『花文鉢』だった。羽の目玉部分を集めている。そんな感じ。そしてそれはエナメルのようにみえる。
これに似た作をみている。乾山の可愛らしい花入。

ああ・・・本当にたくさん可愛い青をみた。

閉館間近までいてから、この雅俗山荘を出た。
ミンミンゼミの声がする。
逸翁美術館のある五月山の裾ではミンミンゼミが鳴いているのだ。
北摂ではこの辺まで来ないとミンミンゼミはいないのだった。


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コメント
タイトル
こんにちは。

「青蒼の美」ってタイトルに惹かれます。
青好きにはたまりません。

焼き物は全然分かりませんが
その色合いの美しさだけでも
観たいものです。
2006/08/20(日) 12:04 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
Takさん こんばんは
やっと帰阪しました。

青花の美には本当にときめきます。
普段は高麗青磁と色鍋島が最愛なのですが、これだけの青花や染付を見ると、ただただときめくばかりです。

やっぱり青色はきれいです。
2006/08/21(月) 01:53 | URL | 遊行 #-[ 編集]
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