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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

川瀬巴水展

川瀬巴水を知ったのは多分、十年以前になる。
わたしは風景版画が好きで、木版画の展覧会によく通っていた。
‘93当時原宿にDO!FAMILY美術館があり、太田記念浮世絵と共にその個人コレクションを愛していた。
そこで巴水の版画を色々みている。
また子供の頃から清方ファンなので、清方周辺を追ううちに巴水を知ったようでもある。

‘96江戸東博で『近代版画に見る東京』という素敵な展覧会があった。
かねてから<三都それぞれの描き方には>という嗜好がある。
東京=版画
京都=日本画
大阪=洋画
これだけは譲れない。
尤も大阪=洋画なのは小出楢重や鍋井克之らの名品を知るからで、織田一磨の版画も決して忘れることは出来ぬのだが。

巴水の本格的な回顧展はこれまであったのだろうか。
あまり聞いていない。わたしのタイミングが悪いのか。
しかし大正時代の版画展などでは必ず見ていた。
'97から始まる『日本の版画』シリーズでも???と、それぞれの時代の代表作を集めた展覧会に必ず現れていた。

今回、前期後期と分けての展覧会で、わたしは後期のみ味わえたが、すばらしいラインナップだと思った。

なお画像は、わたしの持つ江戸東博所蔵の絵葉書からのものを出すが、Art & Bellのとらさんがこちらに画像へのリンクをつけた労作を作成しておられるので、わたしなどは「うれしい??すてき??」と声をあげながらそれを楽しませていただいている。
http://cardiac.exblog.jp/5426610/

巴水の版画でいちばん好きなのは夜景である。
青が効果的に使われていて、黄色い月との比較も美しい。
夜景をこんなに美しく描けるひとはそうはいない。
こちらは今回チラシやポスターになった『馬込の月』である。
img244.jpg

こんな夜ならわたしも出歩くかもしれない。
こちらは『滝乃川』。img245.jpg

三日月がかかっていて、母子が橋を行く。

東京の夜ばかりが見事なのではないが、どうしてもその青の美しさに心が惹かれる。
雨の『大森海岸』静かな『桜田門』、数えればきりがない。

しかし雪の美しさも心を惹く。
img246.jpg

こちらは晩年の『増上寺の雪』。市電を待つ人々。
雪の美しさ、増上寺の荘厳さもさることながら、電線に目がゆく。
現在のように電線が邪魔者扱いされるのではなく、現代情景の一つとして巴水の目に適ったのだ。
img247.jpg

一方こちらはその三十年前の作品で同じく増上寺である。
このお寺は戦災にも震災にも揺るがなかったのか。
そしてこの作品はたいへん好評らしく、今現在の美術雑誌の広告ページなどでもよく見かけるのだった。

清方に入門したのは遅かったと伝記にもあるが、清方の自伝『続 こしかたの記』に巴水のことがある。
「・・・川瀬の家は芝の日陰町に老舗の糸屋であったが、その母は私の父と同じ時代に活躍した仮名垣魯文の妹である。魯文は風刺と諧謔に富む文体で、社会、芸能界を批判する雑文に長じたが、巴水にもその片鱗が窺えた。
画家の出世街道を展覧会に取ることをせず、先人広重の跡を慕って日本風景の木版画一途に進んだ。」
同じく版画家で弟弟子にあたる笠松紫浪もまた、展覧会から遠く離れてその道を進んでいた。

清方の優しくも厳しい目に見守られたことが、巴水の作品世界を深く広めたのだろうか。

img248.jpg

『春の愛宕山』 NHK放送博物館があり、曲垣平九郎がここの男坂を馬で駆け下りる話もあった。
丁度勘九郎(当時)の大河ドラマ『元禄繚乱』の頃、博物館で遊んでから境内のベンチで座っていた。猫がいっぱい寄ってきた。
なんとなくこの作品を見ると、そのときのことが思い出される。

ところで巴水は旅も多くした。
私がここにあげたのは全て都内のかつての風景だが、『旅みやげ』というシリーズも多く残している。そちらもすばらしく、浮かれ心が湧いてくるようだった。
「行きたいわ、行こうかな」
そんなキモチが湧いてきて、色んなことを考える。
『作並温泉』の雨の旅館などは、実際に泊まりたくて仕方なくなった。
今とは様相も変わっているのに、そんな気持ちが起こるのだ。
会場では巴水の製作姿を映した映像が流れている。
それを見てからわたしは本を買う。こんなにいい内容なのに安価で嬉しい。
巴水の青色が意識に広がるのを楽しみながら、わたしは去って行った。
img249.jpg

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コメント
素晴らしいレポートをじっくりと読ませていただきました。
拙ブログまでご紹介いただき、恐縮です。
文才がないので、画像でごまかしています。
2006/08/27(日) 22:30 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
遊行七恵さん、こんばんは。
第一印象はまさに広重ですね。
でもよく観ていると、特に「夜景」のシリーズは広重とどこか違う感じがします。
「増上寺の雪」やここには掲載されてない「向島の雪」もそうですが、広重のように「音」がしない感じがします。
「音」あるいは「詩情」と云ってもいいのでしょうか。
否定的な意味ではないのですが、「静寂」そのものを感じさせられます。
2006/08/27(日) 23:14 | URL | sekisindho #-[ 編集]
この版画家は、前々からどこかで見たことがあるはずですが、
先月、千葉市立美術館の展示で見てから、急に意識に登って
きたのです。
ブルーの美しさに打ちのめされたのですが、
今見ると、増上寺の赤も衝撃的ですね。
2006/08/28(月) 00:03 | URL | 一村雨 #-[ 編集]
☆とらさん こんにちは
とらさんのブログとサイトの充実には「おお~」なわたしです。
すごい労力の賜物が世界を深めるんだなーと思います。
楽しませてもらい、うれしかったです。

★ sekisindhoさん こんにちは
広重には滑稽さがありました。江戸の黄表紙に出てくるような連中が(たとえ画中に出ずとも)わんさとおりますね。
しかし巴水の人物は静かに佇むばかりです。
わたしは両者とも好きです♪

☆一村雨さん こんにちは
屋根の赤さが本当にはっ となりますね。
艶かしささえ感じるほどです。
青い夜景、赤い屋根、白い雪。
濃さはないのに印象深いです。
2006/08/28(月) 10:07 | URL | 遊行 #-[ 編集]
青を基調に描かれた素晴らしい絵に出会うと、日本画であれ洋画であれいつもハッとするのですが、今日の川瀬巴水という人の描いた青い世界も本当に素敵です。
とは言え、今日はじめてこの人のことを知りました。
とらさんのブログも読ませていただきながら、楽しみが倍増しました。
それにしても北斎や広重を知っている人々の同じ目線に、この巴水という人が上がってこないのは何故でしょう?
私の勉強不足といわれればそれまでですが。。。
2006/08/28(月) 12:59 | URL | red_pepper #-[ 編集]
red_pepper さん こんばんは
やはり展覧会が少ないことと商業ベースに乗らなかったことが原因の一つかもしれませんね。
昔は皆が知ってても時がたてば知られなくなったり一部の好事家の愉しみだけになったり。
しかしこうして回顧展が開かれることで、少しでも広がればなと思います。
2006/08/28(月) 22:01 | URL | 遊行 #-[ 編集]
巴水、よいですね~知らなかったのですが、いっぺんにファンになってしまいました。関西でも回顧展やらないかな~
2006/08/29(火) 15:30 | URL | こいちゃ #EVuTtBQQ[ 編集]
カナシイコトに来てくれへんのです。
しかし巴水はこちらにも来てまして、四天王寺や奈良風景を制作しています。
そうそう、東博にもかなりたくさん巴水がありましたよ。
2006/08/29(火) 22:16 | URL | 遊行 #-[ 編集]
遊行さん、こんばんは。
私も巴水の色、特に青に魅せられた者の一人です。
千葉の美術館で偶然拝見して、
これまたタイミング良く回顧展が開催されてラッキーでした。

来年からは江戸博でも作品が公開されるとのことで、
そちらもとても楽しみです!
2006/08/31(木) 00:52 | URL | はろるど #GMs.CvUw[ 編集]
はろるどさん こんにちは
江戸博のもよいですよ♪
青色はこちらの方が多いかもしれません。

千葉市美術館はよい版画をたくさん収蔵しているので、好きな美術館です。
チラシもセンスいいですしね。

楽しみやわ~
2006/08/31(木) 13:59 | URL | 遊行 #-[ 編集]
会場の都合で大幅な展示替えがあるんですよね。前期後期二回分買うと入場券が千円になるというー、カタログ買われたなら一回行けばいいですね。今日町田版画美術館行って来ました、大正ロマンチズムあふれる作品堪能しました、遊ぼう
2006/09/01(金) 21:17 | URL | oki@携帯から #TY.N/4k.[ 編集]
okiさん こんばんは
町田のチラシ見てて「えーなー」と思ってました。
町田は織田一磨のときに一度行ったきりです。
版画はやはり大正や昭和初期がいいです。
本も良かったので嬉しいです♪
2006/09/01(金) 22:51 | URL | 遊行 #-[ 編集]
こんばんは。
TBありがとうございました。

オペラシティーにも一枚だけ巴水が展示してありました。
多くの若手作家さんたちに混じって。

それでもまったく引けをとらない巴水の作品。
あらためて「よさ」分かった気がしました。
2006/09/03(日) 22:47 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
Takさん こんにちは
ニューオータニはホテルとしてはあまり好まないのですが、美術館としては、なかなかよい展覧会の多いところだと思います。
巴水芸術がこれを機にどんどん一般化すれば、と思いました。
2006/09/04(月) 12:26 | URL | 遊行 #-[ 編集]
川瀬巴水
はじめまして、、川瀬巴水を知ったのは外国での展覧会で3年前、その場で立ち尽くし何時間かけて何回も往復、魅せられました。今もその名を聞くだけでワクワク。江戸博には帰省中だったのに何故知らなかったか後悔。来月から又展覧会が2ヶ月間もあり、何回通えるか楽しみです。
前回の作品では実家から近い高津さんの境内があったけど、今回も展示されるかなあ~、もう胸がどきどきで待ってます。
2007/01/10(水) 03:22 | URL | Mag #-[ 編集]
はじめまして
Magさん こんにちは
お話から察すると、外国にお住まいなのでしょうか。
巴水、若冲、華香らは日本で忘れられた後、外国で愛されるようになり、やがて日本へ回帰する、という感じですね。
二ヶ月も展覧会があるのはうらやましいです。

>高津さんの境内
ええですねー。狛犬さんのいる作品でしたか。あの界隈はビルも多いですが、今もええ雰囲気が残るので好きな場所です。仁徳天皇もあの辺から民家のかまどの火が再燃するのを待ちはったわけですね。
2007/01/10(水) 09:55 | URL | 遊行 #-[ 編集]
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