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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

幻の棟方志功

大丸元町で棟方志功展が開催されている。
大原美術館と言うよりその母体のクラレが所蔵する未公開の大和絵などがメインである。
棟方志功はよく知られているように、多くの愛護者を持っていた。
有名になってからは世界中のファンが彼の作品や人柄を愛し、生存中・死後関わりなくその人気は高い。
無名の頃または売り出し中の頃、彼は河井寛次郎や大原孫三郎らに愛された。

わたしは学生の頃大原で初めて棟方志功の作品に出会い、衝撃を受けた。
特に『大和し美し』に心を奪われたが、あの圧倒的な力に魅せられてしまった。
同じ版画でも浮世絵とは全く異なる世界で、自刻自摺の様子をカメラが捉えた『わだばゴッホになる』という番組を見てますますのめりこんでしまった。

板画だけではなく(棟方は版画ではなく板画と称した)大和絵や書にも独自の力が満ち満ちていて、一旦のめりこむと何ら瑕を見出せなくなってしまった。
筆勢。
土俗性と、暴風雨のような力が画面をはみ出してこちらの意識いっぱいに侵攻して来るようだった。
20年近く経った今も棟方志功展がある、といえば近隣なら飛んで行くほどだ。

さて今回の展覧会はチラシからして魅力的だった。
img332.jpg

上は風神雷神図。下は鯉の群れで、実はこの緋鯉は大原總一郎の当時の年齢と同数なのだった。
風神雷神といえば、今現在東京の出光美術館で宗達・光琳・抱一の三枚の風神雷神図が並んでいるが、それ以降の日本人もまた風神雷神図を愛してきた。
この棟方、富田渓仙、前田青邨らもそれぞれ風神雷神を描いている。
この青と赤の若い神々は一名『天気童子降雨童女』とも呼ばれている。
ただしどちらかどちらともしれない。
どちらでもいいのだ、天候はこれら神々の手にあるのだから。

鯉もまた力強く泳いでいる。
鱗の強さ、鰭の強さ、眼の強さ。
水に手を差し伸べれば、バシッと打たれる気合がある。
しかし緊張を強いるものではない。散らばった存在ではなく、融和した団体。
それがこの鯉図なのだった。

大原家のために揮毫した襖絵の数々が展示されている。
『五智菩薩図』 img334-1.jpg

ヘンな感じに襖の引き手跡があるなと思ったのも道理で、棟方は本来描くべき裏に一気呵成に機嫌よく描いてしまっていたそうだ。
しかしそれすらなんだか、天に浮かぶ菩薩のために輝く星のように見える。
img334-2.jpg
img334-3.jpg

美貌の菩薩たち。
もしかすると板画のときより大和絵の方が美貌が多いのかもしれない。

以前青森の古い温泉に浸かっていると、目の前に餅より白く柔らかそうな女の人が現れた。
その顔、棟方ゑがく女人にそっくりで、びっくりした。
「・・・青森にはあなたのような女の人、多いのですか」
「顔かね、よくある顔だよ」
棟方志功は故郷の女人を描いていたのか。

山岳図(八甲田山界隈)、花と波濤図などぐいぐい力のある襖絵が並んでいて、元気になりそうな気がする。
人間、気合だ。そんなことを言いそうな気分になる。
しかし、気合ばかりの襖絵ではない。
可愛いのが子供部屋の襖絵だ。
img335.jpg

ミミズクだ。かわいいのなんの!!
やーん、一羽くらいさらいたい??!!
あ゛―可愛い!
わたしなら全部に名前をつけて呼びかけるね。
関係ないが、童画家・武井武雄もミミズクが好きだったような気がする。


冒頭で大和絵がメインと書いたが、無論のこと板画もたくさん並ぶ。
この展覧会タイトルが『幻の棟方志功』と名づけられた理由は、大原家の私的な襖絵(現在は屏風に仕立て直されている)と、クラレのために制作された作品が初めて世に出るからだ。

昭和26年、クラレが巨大な覚悟をもって開発にあたったビニロンという製品のために、棟方も心血注ぐ板画を生み出した。
『美尼羅牟頌板画柵』別名『運命板画柵』である。
img333-1.jpg

運命といえばベートーヴェンである。
それとニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』が大原から棟方に寄せられたそうだ。
連作もので、黎明・真昼・夕宵・深夜と4柵あり、ツァラトゥストラの物語が描かれている。
クラレの富山工場にあったそうだ。
現在クラレと大原美術館とで別摺りをそれぞれ蔵しているが、どちらが初か後かは知らない。
基督の柵同様、彩色なしの作品である。
力業。一言で言えばそんな作品だと思う。

彩色の鮮やかな作品もまた、並んでいる。
大原孫三郎の妻・寿恵子の歌集を板画で表現した作品群である。
棟方はこれ以外にも谷崎の短歌などを板画表現してきた。
河井、柳らの心を惹いた『大和し美し』も佐藤一英の長詩なのである。
後年草野心平は棟方の言葉『わだばゴッホになる』から詩を書き、それもまた板画になった。
img333-2.jpg

棟方のこの方面の仕事はどれもこれも彩色も華やかで楽しいものが多い。
挿絵と言うのではなく、その歌心を深く深く理解し、融和した作品を生み出している。
ただしコラボレートというものではなく、二次創作と言うべきかもしれない。

楽しい、は他にもある。
クラレの連絡月報表紙。
img333-3.jpg
’57?’68の正月号干支一巡。
可愛くて楽しい表紙だった。

最後に愛らしい子どもの絵。
大原家の子どもらの健康を祈った大和絵がある。
『宝珠界童女図・文殊天童子図』 宝珠=桃を食べようとするホッペの真っ赤な女の子、絣の着物でそちらを眺める男の子。
文字が豊かに強くそこにある。めでたく力強い作品で、魔除けになるのは確実だった。

そしてこちらは襖絵の一部分。
可愛い子供たち。新嘗祭の日に描いたそうだ。
img336.jpg


神戸では25日まで、続いて東京で10/5?17まで大丸東京で開催する。
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コメント
遊行さま、こんばんは。

棟方志功の絵とつい先日、国立近代美術館でお目にかかってきたところです。
去年だったか、今年だったか、横浜で、棟方志功展があったようでしたが、あぁ、民芸展がらみだったかもしれません。

大丸なら、頑張れば、平日に行けそうです。
嬉しい情報ありがとうございます。

命あふれる板絵、版画?なにしろ大好きです。
書もいい味、出してますよねぇ~~
嬉しい~~★
2006/09/18(月) 21:50 | URL | あべまつ #-[ 編集]
遊行七恵さん、こんばんは。
偶然にも数日前、お知り合いが棟方志功の絵を購入されたので見せていただきました。
珍しく一匹の大きな鯉の絵で、「美貌の菩薩」しかイメージとして持っていなかったので、吃驚させられたのです。
今日の記事拝見して、納得すると共に棟方志功へのイメージが大幅に変更されました。
2006/09/19(火) 00:11 | URL | sekisindho #-[ 編集]
ブンカムラの大規模な棟方の展覧会、日本民藝館での展覧会、横浜そごうでの師匠柳とのかかわりでの展覧会、僕もずいぶん観ましたね。
ベートーヴェンを愛するだけあって彼の板画のパワーも尋常ではない。
横浜の展覧会では十二菩薩が評判になったので、調子に乗ってキリスト十二弟子を描いたら柳に不評だったとか面白かったです。
近代美術館の大原所蔵の棟方作品は「双仏」という小さい作品が出品されていました。
東京への巡回を心待ちにしています。
2006/09/19(火) 09:48 | URL | oki #-[ 編集]
★あべまつさん こんにちは
百貨店の展覧会は主婦やOLの味方ですよネ。
がんばって行かれてください。神戸、人気でしたよー。
今回は大原家との私的なつながりを楽しめる展覧会でした。
やっぱり志功はいいです。

☆sekisindhoさん こんにちは
鯉はけっこう作品あるようです。雨月物語の夢応の鯉魚とか色々。評論家に言わせると板画に比べ大和絵は弱いらしいですが、見る限り、そんなことはないように思います。
しかしうらやましいお話ですね。

★okiさん こんにちは
棟方志功の人気は一定してますが、時々大波が来るようです。
最近又そんな感じかもしれません。作品と人間・棟方に多くのファンがいるのもよくわかります。しみじみはないけれど、元気になりますもの。
2006/09/19(火) 12:53 | URL | 遊行 #-[ 編集]
私も学生時代、青森の棟方志功記念館に行って以来
大ファンです。
実は実家に志功の版画が一点あるのですが、
どうも贋作っぽい~
この展覧会、東京へまわってくるのが楽しみです。
2006/09/19(火) 18:43 | URL | 一村雨 #-[ 編集]
★一村雨さん こんにちは
私も青森の記念館に行きました。あとは鎌倉だけ。
>実家に志功の版画が
う・ら・や・ま・し・い~~
しかしなにやらその後に不穏な発言が。
是非八重洲まで出かけてください。
2006/09/19(火) 22:06 | URL | 遊行 #-[ 編集]
富山にもあるんですよ。福光美術館。
疎開先だったと思う。
春に、富山まで行ったのですが、富山県立近代美術館と富山県水墨美術館で、手一杯で、寄れませんでした。

ところで、今、青森県立美術館の常設で展示されている十大弟子は、見物です。
刷り上げたままの、裏打ち無しの、シワシワの状態で展示されています。
刷る際の、力の入れ方、力の向きがわかって面白いです。

大丸、チェックしておきました。
2006/09/21(木) 00:17 | URL | 鼎 #PgtEBqSc[ 編集]
遊行さんのブログで、改めてお勉強させていただきました。
どちらかというと、棟方志功は自分でも少し分かりにくくて、今まで距離を置いていた節があります。
でも、今回数々の作品を目の前にしてかなり近付けたような気がします。ありがとうございました。
2006/09/21(木) 10:16 | URL | red_pepper #-[ 編集]
★鼎さん こんにちは
疎開先にもそうしたコレクションがあるのはよいですね。
富山近美には滝口修造の残したものがかなり多くあると聞いてます。
水墨画美はなかなか面白い企画もあるそうですし。
>裏打ち無しの、シワシワの状態で
・・・ナマナマしいですね。
棟方は摺るときベートーヴェンの第九を鼻歌しながら摺ってたようですが、そのシワに音が染み込んでいるのかもしれません。

☆red_pepper さん こんにちは
棟方志功は好き嫌いが分かれますね。
わたしはやっぱりファンです。
見ていて本当にあきません。
手を入れる隙間がないくらい全体が<棟方志功>に満ち満ちた作品ばかりです。
2006/09/21(木) 12:34 | URL | 遊行 #-[ 編集]
> 富山近美には滝口修造の残したものがかなり多くあると聞いてます。
富山県近美は、常設で一室を、瀧口修造の展示に、割り当てています。
昨年、世田谷美術館で開催された「瀧口修造 夢の漂流物」も、富山県近美に巡回しました。昨年のベストな企画の一つです。
世田谷で、会期中に売り切れた図録も、富山にはありました。(世田谷も、富山県近美の巡回終了後、取り寄せていました)この図録は辞書みたいで格好いいです。
ここの常設には腰を抜かしました。地方の美術館としては、驚きのコレクションです。洋の東西を問わず、近代から現代美術がコレクションされています。
駅前から、市内の美術館/博物館の巡回バスが出ています。
2006/09/22(金) 01:06 | URL | 鼎 #PgtEBqSc[ 編集]
 遊行さんご無沙汰すみません。 
絵本やらマリア・テレジアやら、興味のある記事の連続で、タイトルは拝見して
いたのですが、なかなかゆっくり読んでコメント書く間が無くて・・(゜―Å)

 棟方志功はあらゆる中に神仏が見えた人なんだと思います。
輝く太陽の中だけでなく、薄明かりや月の光や暗闇などの中にも・・・
でもそれは生命感あふれる日本の神仏で、自己犠牲の神様とはちょっと
縁遠かったのかもしれませんね~
2006/09/22(金) 10:27 | URL | 山桜 #-[ 編集]
☆鼎さん こんにちは
去年の『夢の漂流物』はいい展覧会でした。
かなり長くあの場におりました。
富山にも行きたいですがなかなか難しいです。
しかしこうして情報をいただくと気合が入りますね。
首都圏と関西だけでなく、あちこち出向きたいです。
また色々と教えてくださいね。

★山桜さん こんにちは
志功は縄文人だという説がありますが、あのヴァイタリティを思えば納得です。だからカミサマも仏様も完全に融合し、分離することがなくなっているのでは、と思いました。
前を向いて行く人、らしいと思います。
ところで日立の日の写真、ときめきました。
ヒ・ツギからこちらヒ・タチで円環が閉じたようにも思えます。
2006/09/22(金) 12:55 | URL | 遊行 #-[ 編集]
早速TBありがとうございました!
やっとこさアップしました。
七恵さんとはのっけたい絵が同じだったようでうれしいです♪
・・・あれミミズクだったのか(汗;)
2006/09/25(月) 22:26 | URL | こいちゃ #EVuTtBQQ[ 編集]
TBさせていただこうとおもったら、jugemがまたストライキしてます。ご機嫌よくなったころにさせていただきますね~(汗;)
2006/09/25(月) 22:27 | URL | こいちゃ #EVuTtBQQ[ 編集]
今日行ってきました
遊行さんこんばんは。
「幻の棟方志功」今日いってきました、ミミズクかわいかったですねー。
面白いのがクラレ所蔵の「連絡月報」を描いたのが棟方ではないことが東京の展覧会直前にわかったことです、遊行さんご存じないでしょ/笑。

さて、逓信総合博物館の「僕らの小松崎茂」のチケットが入手できました。
会期は12/3までと長いですので、ご入用なら送付先を上記までメールくださいね。
2006/10/06(金) 22:21 | URL | oki #-[ 編集]
okiさん こんばんは
>描いたのが棟方ではないことが東京の展覧会直前にわかったこと
なななんと、やられましたねー。
可愛い干支でしたが、別人さんでしたか。
しかし作品としての価値は下がったかもしれないけれど、あの連絡月報の保管はクラレにとっては意義深いことだと思います。
だって12年分置いておくのもけっこうしんどそうですよ。
(あれ、なんか論理がズレてるか私」)
2006/10/06(金) 22:53 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
ちょっと詳しく
◎図録表記 正誤表
○ P49、およびP90
(誤)『倉敷レイヨン連絡月報表紙原画』
(正)参考出品 柚木沙弥郎作『倉敷レイヨン連絡月報表紙原画』

確かに、珍しいものばかりでした。
青森と鎌倉にも巡回しましょう....などと
2006/10/09(月) 20:38 | URL | 鼎 #PgtEBqSc[ 編集]
鼎さん こんにちは
柚木沙弥郎といえば盛岡の宮沢賢治記念館の作品とかありますね。
でもわかってよかったです。
埋もれたままでいるよりこうして外に出ることで新発見になったのですから♪
2006/10/10(火) 09:58 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんばんは。

明日で終わってしまう東京展ですが
何とか滑り込みで行って来られました。

我が家の襖にも何か描いて欲しいな~と
思ったのですが、肝心の襖がありませんでした。。。
2006/10/16(月) 23:03 | URL | Tak #8iCOsRG2[ 編集]
東京展、出かけました~
棟方志功の描く子どもの絵って
とってもやさしいのですね。
こんな絵に囲まれて、少年時代を
過ごしたかったです。
2006/10/17(火) 06:01 | URL | 一村雨 #-[ 編集]
☆Takさん こんにちは
襖がない・・・→全室洋間というお城のような!
と、すぐに妄想に走る遊行です。
大正頃のパトロンはえらいと思います。
あの襖絵は本当に可愛いです♪

★一村雨さん こんにちは
根津神社の境内で遊び、ご自宅には志功ゑがく、がお宝というのがうらやましいですゾヨ。
それにしてもいい大和絵でした。
2006/10/17(火) 09:19 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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