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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

浮世絵 名所と版元

数ヶ月前チラシを手に入れた。浮世絵である。
場所は三田図書館内の郷土資料館。
img546.jpg


国立劇場も後援しているようだから、これはかなり凄いのではと思った。
11/23-11/26までわたしは首都圏と信州を徘徊した。
25の午後には軽井沢で待ち合わせなので、その日の一番に資料館に入った。
一番乗りなので大変贅沢に、数々の浮世絵を堪能した。
名所と版元と副題がつくように、名所を描いたものが多かったが、わたし好みの芝居絵や草双紙の表紙などが出ていた。

子供の頃、父が広重ファンだったので東海道五十三次などの大判の本はあったが、わたしが最初に自分から好きになったのは國貞である。しかも五渡亭の頃の國貞が一番いい。
その後國芳に熱狂したから國貞にはちょっと距離が生まれたとはいえ、芝居関係の作品なら、やっぱり國貞が最高だと思う。

その國貞ゑがく(鏡花の小説のようだ)児雷也譚の表紙絵が並んでいた。
二冊で一枚の絵になるような仕掛けがされている。
こういうのが楽しい。
児雷也は多分八世団十郎だろう。オトコマエだし。
蝦蟇の妖術使い・蛇の妖術使い・蛞蝓の、と三すくみの関係があったはずだ。
その蛞蝓の上に立つのが繊細な美貌の主で、これは坂東しうかかもしれない。
キッチリ調べればよいが今その時間がない。
芸術性云々より、浮世絵はまず楽しむことが一番だと思うので、この展覧会でわたしが好むのは、こうした作品が多い。

名所と物語の関係といえば、まず第一に泉岳寺だと思う。
そろそろ義士祭の日も近づいてきたし、タイムリーでもある。
実録物は映画や真山青果の『元禄忠臣蔵』があるが、錦絵に描かれるのはほぼ間違いなく歌舞伎の舞台に上がる忠臣蔵である。
その中でも一番気に入ったのは、一軒のお屋敷の部屋や庭全てを十二段の各シーンにまとめた一枚物である。img540.jpg

クリックしてください。
こういうのが一番楽しい。つまり双六やビラと同類なのだが、それが一番そそられる。
わたしは多分、現代人の<目>で浮世絵を見ていない。
描かれた当時に生きる人の<目>で浮世絵を見ているのだ。
だからこんなにドキドキする。
img541.jpg


泉岳寺のご開帳に仮名手本忠臣蔵のキャラたちが訪れる、と言う趣向の絵がある。
豊國を名乗った頃の國貞の作品である。これは芝居絵と言うより役者絵なのである。
それぞれそのキャラを演ずる役者の姿がある。それだけで嬉しい。
わたしは幕末の歌舞伎役者の物語にわくわくしているので、なんだか贔屓の役者の姿を見ている気分なのだ。
これは芝居絵・役者絵を眺める分にはとてもいいことなのかもしれない。
コミックのキャラにときめくのだから、錦絵のキャラにときめくのに、何の不思議もない。
勘平の腹切りで寄り添う原の視線が とか、定九郎の冷酷な眼差しとにやりと笑う不逞な口許が とか、色々見るべきものが多いのだ。

港区には江戸時代から多くの名所があった。
愛宕山。毘沙門天の使いで大きなおしゃもじを持っている。
これは以前にも見ている。
つまり、愛宕で見ている。
愛宕にはNHK博物館がある。渋谷のはスタジオパークで、こちらはラジオから始まる歴史の色々。アーカイブス。
ここが結構好きでよく通った。そしてこの博物館には愛宕山を描いた浮世絵や版画のコレクションがあった。

また愛宕といえば寛永の三馬術の曲垣平九郎である。講談の人気者だ。
ほら、ちゃんとその絵がある。img542.jpg
芳年。
わたしはこの男坂がしんどいので、愛宕山に登るときは横の小さな階段を使う。しかしとても長くてイヤになるのだが。

すぐそばには虎ノ門がある。ここの金毘羅さんの境内で一休みもする。昔は滝のような洗堰がありどんどんと呼ばれていたそうだ。
広重は裸参りの絵を残したが、その130年後に杉浦日向子は『百日紅』でその情景を描いている。

ところで芝赤羽橋辺りと聞けば、思い出すのは鍼医・藤枝梅安の患者がそこから品川台町の梅安宅まで通う設定だった。
池波正太郎の江戸切絵図が浮かんでくるようだ。

増上寺界隈。
赤い増上寺に降り積もる雪。
先ごろ回顧展が開かれた川瀬巴水の名作がある。大正の広重と謳われた巴水だが、その先達・広重もまた雪の増上寺を描いている。
個人的なことを言えば、わたしは増上寺の門で雨宿りをしたからか、雨のイメージがある。
巴水の同門・笠松紫浪もいい版画を多く残している。紀の国坂。黒い木がいい。見事な構図だ。
img544.jpg

ところでこれは版画だからよいのかもしれない。写真ならもう少しずれた方がいいと指導される。そして実際のところ、この木にぶつかる女がいるだろう。多分、ここに。
紫浪の日本画は主に講談社の絵本で見ることができる。『浦島太郎』など。
だから野間に行くと絵本展が楽しみなのだ。

赤坂には桐畑があったのか、多くの絵師がそれを描いている。
どれがどうということはないけれど、どの作品にも風情がある。
しかしあの赤坂にこんなのどかな情景があったのか。
弁慶橋を渡ると見えたのか、それとも。

ところで明治に入ると西洋文化が一挙に流入してきて、たちまち汽車が通ったりなんだかんだと新しい風景が生まれるようになった。
汽車絵というのか、これがたくさんあった。
私はどちらかといえばあまり好まなかったが、最近はそう嫌いでもなくなっている。
京橋?八重洲?日本橋界隈を走る無料バスのおかげかもしれない。
(すごいこじ付けだ)

働く牛がいる。img541-1.jpg

手前にもぉーと黒牛がいる。なんだか妙に可愛い。

図録には絵葉書もついている。多少割愛されている図版もあるが、なかなかの出来である。
これまで出ている出版物が並ぶ棚を見ると、その牛が表紙の図録もあった。可愛いからね。
それから『港区の近代建築』という素敵な本もあった。
これをたのむと、こちらは無料配布だということで、わたしは雀踊りしながらいただいた。
港区郷土資料館、いいところだと思った。
これからもよろしく。
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コメント
通期で展示してあった広重の“名所江戸百景 高輪うしまち”の構図に惚れています。トリミングされた大八車の車輪、左の虹、食べくさしの西瓜。こういうのをぱっと思いついちゃうのでしょうね。並みの感性ではありません。また、芳年の石段を駆け上がる馬の躍動感もすごいですね。いい絵が沢山あり、興奮しっぱなしでした。
2006/12/01(金) 17:23 | URL | いづつや #RK0OJ0uw[ 編集]
来春、ギメ美術館が太田記念美術館にやってきますね。
わくわくです。現在の展示も見たいのですが、
12月となると、なんともあわただしい気分で、いけません。
無料講演会にだめもとで、申し込んだところです。

こいちゃさんをご紹介下さって、ありがとうでした。
遊行さんのご紹介文の在処を、さっきみっけたのでした。
表慶館をお気に入り頂いて、嬉しいです。

今日は、溝健の雪夫人絵図をみて、しどけない木暮実千代と、乙女の久我美子に驚き、上原謙のイケメン頼りなさに倒れました。
帯留めの小面と、コンパクトの七宝焼き(多分)がいい小道具で、光ってました。

しかし、よく三田の郷土資料館までお運びになりました。
すばらしすぎです。
2006/12/01(金) 22:04 | URL | あべまつ #-[ 編集]
☆いづつやさん こんばんは
江戸の活気が伝わってくるような展覧会でしたね。
いづつやさんも大喜びでわたしも嬉しいです。
一枚のチラシからこんなに楽しい世界が広がるなんて・・・
郷土資料館は侮れません。
三田、四谷、中野 と凄いような資料を蔵してますからね。
また何かよい展覧会があれば、♪教えられたり教えたり(おいおい遊行、ホンマはいくつやねん?)とゆきたいものです。


★あべまつさん こんばんは
ギメは割りと知られている作品を多く所蔵する他に、「あ゛っ?!」なのも多く持つはずですから、とても楽しみです。
今年は浮世絵展でよいのを本当に沢山見ました。展覧会そのものが本当にすばらしい。
来年もこんな調子でいきたいですね。

こいちゃさんは美術も大好きな方ですが、近代建築にも造詣の深い方なので、あべまつさんの素敵な写真をゼヒゼヒ見てもらいたいと思ったのですよ♪本当にいいお写真でした。

溝健の失敗作と称される作品群も、現在の目で見れば当時とは違う感想が湧くと思います。実は私、小津より溝健派なのですよ。
2006/12/01(金) 22:38 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんばんは。
地下鉄の通路に飾ってあるUKIYO-Eのチラシをしげしげと眺めて、なんとか行ってみたいと思っていました(このチラシ、惹かれます)。
残念ながら無理そうなので、レビューをじっくり読ませていただきました。いつものように、外部記憶装置とつながっている(攻殻的)かのような抽斗の多さと想像力に脱帽です。
2006/12/02(土) 02:04 | URL | キリル #4KzfxyHE[ 編集]
もったいないほどのよい展覧会でした。あちこちの資料館情報が欲しいと思っています。
2006/12/02(土) 10:15 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
☆キリルさん こんばんは
これは本当にいい展覧会でした。
こんな質の高いのを無料で見せてくださるのですから、郷土資料館は侮れません。わたしはこれまで三田と言えば建築士会館か慶応くらいしか用がなかったのですが、今度からはここも「要チェックや!」(
2006/12/02(土) 21:01 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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歌川広重、国貞、国芳

港区立港郷土資料館で開催中の“UKIYO-E展”(12/3まで、拙ブログ11/1
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