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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

犬神家の一族 試写会を見る

犬神家の一族の試写会に行った。
わたしは以前の映画の大ファンだ。
とにかく子供の頃の横溝ブームはすごかった。
今でも横溝正史の名前を見るだけで嬉しくなる。
だからか、エキスポランドの夏の風物詩・人が演じるお化け屋敷がこの数年横溝正史シリーズなので嬉しくて仕方ない。
http://yugyofromhere.blog8.fc2.com/blog-entry-572.html
img565.jpg

さて御堂会館で試写会。講談社プレゼンツ。ありがとう、月刊マガジン。
オフィシャルサイトはこちら。
http://www.kadokawa-herald.co.jp/official/inugamike2006/
ストーリーについてはネタばれも何もリメイクなので、予め公然のものとして、映像のことについて書きたいと思う。
前回のキャスティングは大物揃いだった。
すべてはこの人物の死から始まった犬神佐兵衛。わたしの大好きな三國連太郎だったが、今回は仲代達矢。
全然関係ないが、三國さんと仲代の共演映画を思い出した。『切腹』刀も竹光 音楽も武満…
三姉妹も随分若返った。
長女・松子に富司純子、次女・竹子に松坂慶子、三女・梅子に萬田久子というまだまだ若くてきれいな女優陣が勤める。
かつての三姉妹は高峰三枝子・三條美紀・草笛光子という大貫禄の女優陣だった。
これを思えば今の人はみんな若くなったと思う。
俳優・市井の人もかわらず。
監督・市川崑も90歳、金田一さんの石坂浩二も60歳過ぎ。
しかしまだまだやれる、と思った。

30年前と同じ役柄は石坂浩二だけではない。神官役の大滝秀治もそう。警部役の加藤武も。
同じ監督の『ビルマの竪琴』で北林谷栄が現地のおばあさんを30年後にも演じたのと一緒。

ああわくわくする。
img566.jpg

テーマ音楽は以前の大野雄二の名曲がそのままなので、それだけでも嬉しい。やっぱり犬神家のテーマはこれだ。
映像の美は冒頭の佐兵衛臨終の場の情景から始まっている。
モノクロではなくシルバープリントのような映像。
銀色と灰色の間の色彩設計。さすがにすばらしい。
富司純子が「お父様っご遺言を!」と求める表情がたいへん良かった。
切羽詰っているのがこちらにも伝わる。
遺言がなかったらないで(ないと別な形の争いが始まるのだが)、あるならあるで対処するぞというのが見える。
松子という強い意志を持つ女の性格がここでのぞいている。

遺言を預かる古舘弁護士の中村敦夫を見るのは久しぶりだ。
いつもシャープで孤独な影を背負う男というイメージがあるので、なにやらユーモラスな風貌にちょっと微笑んだ。
この顔を見ると阿部寛がフケ作りをしたらこうなるのでは、と思ったりした。

次女夫婦が松坂慶子と岸部一徳なのにちょっとした感慨がある。
岸部一徳の俳優デビュー作が島尾敏雄の『死の棘』で、そのときすっぴんの松坂慶子が妻のミホさんを演じた。極北に立つ夫婦の物語だった。
それを思うとこの竹子夫婦は欲で結ばれたたくましい夫婦に見える。
松坂慶子が琴を弾くシーンがある。
たいへんきれいだと思った。
柄の大きさが着物をみごとに着こなし、頬の豊かさが優雅に見える。
それにしてもいい色合いの着物を三姉妹は身につけている。
そうしたところに市川監督の美意識が感じられるのだ。

三女の萬田久子は大好きな女優だ。なんていい女なのだろう。
髪を下ろしていてもいいし、このように上げていても、とてもいい。
この三人の女優が底意地の悪い三姉妹を演じているのだから、迫力がある。

金田一耕助登場。
石坂浩二は肉付きもよくなったが、よく走るのに感心した。
アップになると、金田一の可愛らしさがよく出ている。
もともと金田一耕助は、若いのかくたびれているのかわからない男として描かれているから、この金田一も悪くないと思う。
宿の女中とのうどん屋でのやり取りに、その可愛らしさがよく出ていた。
30年前と全く同じシーンが懐かしい。
女中が障子をぴしゃりと閉める。服が挟まる。それがそぉっ と抜けてゆく。
市川監督は布と畳や障子との関わりが好きなのだと思う。
新旧の犬神家だけでなく、『鍵』でもそんなシーンがあったし『細雪』にもあった。
横溝や谷崎という耽美的な世界を映像化するときの、監督のこだわりなのかもしれない。
布の質感がそこにある。

松嶋菜々子は清楚なスタイルがよく似合った。物静かでそして意志の強いヒロインをよく演じていると思う。なにより自然な感じがした。

それにしても立派な屋敷だ。
襖や障子は大道具のものとしても(金地に桃山風な意匠)すばらしい屋敷。
実は子供の頃信州にあこがれていた。
先日上田に住む妹のところに行ったとき、「なぜか信州に憧れていて」と話したが、考えればこの犬神家からの始まりだったのだ。
須磨・舞子辺りから淡路島への憧れは『悪魔が来たりて笛を吹く』からだし、戦後すぐの混乱期に関心があるのは、やっぱり横溝正史の世界からなのだった。

菊人形に生首、というのは前回のほうが怖かった。
今回はちょっと作りすぎ。しかしいまだに菊人形を見ればこのシーンを思い出すのだから、強烈な印象だった。
『菊畑』鬼一法眼三略巻の芝居と聞いても、「ヤレ鬼三太、我と汝れとはかく身をやつし…」の台詞と同時にこのことを思い出す。
尤も一番凄いのはヨキケスだが。
申し訳ないことに、シンクロナイズドを見るたび必ず思い出してしまうのだ。
しかし残念なのは、偽の助清を斧で殺すだけで、見立ての説明がされなかったのが大変残念でもある。逆立ちしたから<見立て・斧琴菊>が完成したのに。
ところで横溝は尾上菊五郎の家に伝わる斧琴菊からこのヒントを得たそうだが、その尾上家から母子が映画に参加しているのだから、わたしなどには面白かった。

警部の加藤武がいつもの台詞「よーし、わかった!」を言うたびに昔のファンは喜ぶ。わたしも「やったーやったー♪」である。
脇にもいい俳優が当てられている。尾藤イサオはなぜあんなにも若いのだ、ちっとも変わらない…
前回竹子を演じた三條美紀が松子の母役で顔を見せているが、こちらにはちょっとびっくりしたが。

息子が殺され半狂乱になり暴れる松坂慶子を夫と娘の奥菜恵が抑えようとして吹っ飛ばされる。妙なリアリズムがおかしい。それを丁寧に撮っていることも考えれば、笑える。
葬式の席でやけくそに巻き寿司を頬張り続ける松坂慶子が凄かった。
へんなことを言うようだが、この三姉妹で有吉佐和子の『三婆』が見たくなってきた…

ところで気になったのは石坂浩二の手の震え。金田一耕助はどもりだが手は震えてなどいなかった。演技なのかなんなのか…ちょっと気にかかった。

映画は2時間を少し超えるが、全くたるみのない作りで、たいへん面白く出来ていた。
映像美と娯楽とが融合している。
前回とはまた異なるよさがあり、わたしはどちらも再度見たくなっている。
新しい犬神家の一族が大いに盛り上がることを期待したい。
また見に行きたいし、友人たちにも勧めたいと思う。
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コメント
斧・琴・菊
 今でも、斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)の柄を見ると、池に突き出たシンクロ足を思い出してゾクッとします。 石坂金田一さん、元気に走っておられましたか! 少し太ってしまったようで、それがちょっと心配でした。

 市川監督の布と畳を障子へのこだわり、素敵ですね。 美しい姉妹と言えば、少女の頃に見た「細雪」の世界への憧れが消えません。 母や祖母達が揃って美しい姉妹だった所為もあるかな。(私は遺伝子を貰い損ねた味噌っかすです^^;)

2006/12/12(火) 17:17 | URL | 山桜 #-[ 編集]
山桜さん こんばんは
横溝正史の世界は、些細な日常に濃い影を落としていると思います。
わたしたちの小学校では「たたりじゃーーーっ!!」が挨拶でした。
おはようもありがとうも何もかも吹っ飛んで一言、「たたりじゃーーっ」

その味噌っかすを田楽やナスのシギ焼きにつけて食べる幸せは、とても大きいものだと思います。・・・かいてるだけでヨダレ湧いてきました(え?)
2006/12/12(火) 22:34 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
たたりじゃ~!
「たたりじゃ~!」は、志村けんの影響も大きいですよね^^

 あの撮影があった岡山の村や鍾乳洞を旅したことがあります。 若気の祟り知らず…
2006/12/13(水) 20:22 | URL | 山桜 #-[ 編集]
山桜さん こんばんは
知人にあの事件の実話の隣村の人がいます。実話は清張あたりが書いてると思いますが、生々しい怖い話を聞きました。本当に怖かった~~

しかし本当にアウトドアですねー。
2006/12/13(水) 22:02 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
遊行さん今晩は。
ちょうど今発売中の「サンデー毎日」にこの映画の評が載っています。
「三十年の間には映画を超えるような事件もあったし、描写もどんどんえぐくなっている。時代のリサーチが必要だったかも」
「結末がわかっているだけにハードルの位置が高い」
と厳しいですが「でもこの家の重厚な雰囲気とか市川監督にしか出せない品格はある」と五点満点で三点ですか。
遊行さんなら何点つけますか?
2006/12/14(木) 21:44 | URL | oki #-[ 編集]
okiさん こんばんは
点数ねえ・・・なんていうんですかね、比較するから点が低いのです。
パラレルワールドでの話だと思えばこちらにももう少しよい点が入るようにも思います。
しかし全く同じシーンを・全く同じ動きを演じさせるのは、これは監督の趣味なのだなーと思いました。
無理して違うことをするのでなく、全く同じ動きを俳優に要求する・・・
映画のリメイクと言うより、芝居の再演のような感覚かもしれません。

リメイクするなら病院坂の首くくりの家をしてほしいです。前回のは完全に失敗作だと思っております。

会社の先輩とリメイクする必要について話し合ったのですが、当初わたしは反対でしたけど、彼の言葉に納得したのです。
「今の新しい観客を呼べる」
なるほどそのとおりです。
古い映画は劇場には載らない。

それともう一つ思ったのですが、これは監督の本意ではないかもしれませんが、下手に新しいことをするよりもこうした手法の方が確実性があるのではないでしょうか。
ただしこれはこの監督に限る、と言う条件つきですが。

別人の監督がするなら工夫はすべきですし、して巧く行くことは殆どありませんけれどね。
2006/12/14(木) 23:24 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
週刊新潮も
遊行さんが見出しを読むのを楽しみにしている「文春」「新潮」ともこの映画取り上げていますねー金田一偉大なり!
新潮が面白い、この映画を「映画歌舞伎」と評するのですが話は今都内で公開中の岩井俊二監督の「市川監督物語」に及んでいます。
今回のリメイク版に便乗して作られたようですが戦争末期の未公開人形劇「娘道成寺」の一部も引用されているとか。
遊行さん、新年の東京遠征のおりにはぜひこれも!
2006/12/16(土) 22:27 | URL | oki #-[ 編集]
なんじゃこりゃー
いきなり優作を引用しました。

>この映画を「映画歌舞伎」と評するのですが
ああ、その通りだと思います。
だからリメイクではなく、再演と言うのが正しいでしょうね。
映画的と言うより演劇的な感じがしました。ですから、この芝居を舞台に乗せてもokな気がします。二段に装置を作って、下の段で過去や外の景色を描く。・・・頭の中で妄想が始まりましたよ。

>未公開人形劇「娘道成寺」
何年前か、黒鉄ヒロシの『新撰組』を人形劇で映像化してましたね。あれはマンガのキャラを切り抜いて割り箸を付けて動かしていたような気がします。そんな感じなのかしら・・・

21日、日帰りで品川ハイカイします。
2006/12/17(日) 11:13 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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