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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

追悼・岸田今日子

女優の岸田今日子さんがなくなった。
わたしは彼女のファンだ。
演ずる人としてだけでなく、作家・岸田今日子に深い愛情がある。

子供の頃「ムーミン」を見ていた。
ムーミンの声の人の顔をはじめて見たのは何の映画だったか。
怖いような魅力のある人だった。
美人とか優しそうな人に惹かれず、岸田今日子という怖いようなひとに惹かれた。

今年、映画『死者の書』を何度も見た。
川本喜八郎の渾身の傑作。人形たちの織り成す生と死の世界。
その世界に響き渡る岸田今日子の声。
折口信夫の魔力と岸田今日子の魔力が拮抗していた。
映画の語りは岸田今日子の声以外、到底考えられない。
語り手の声に潜む古代の闇、それに感応してわたしはふるえた。

若い頃の映像を見た。
『忍びの者』『砂の女』『悪党』
いずれもナマナマしい肉体を持つ女がそこにいて、安穏とした日常から遠く離れた<気配>に粟立った。滅びる・滅ぼす、女。
凄まじい官能に満ちた女優だと思った。
『破戒』では男を滅ぼす女ではないのだが、三國連太郎が謀殺される状況を思えば、もしかすると彼女が<妻>であるために、男が殺されたのではないかと疑った。

ナマナマしいくせに、なにか半透明なものも感じた。
不思議な女優だと身震いし、いつまでも見ていたいと思った。

『地獄に堕ちた勇者ども』ルキノ・ヴィスコンティの傑作。これほど退廃的な作品は他にはない。
十代のわたしはこの映画の魔力に囚われた。
わたしがみたのはTV放映で、イングリット・チューリンの声を岸田今日子は演じていた。
たぶん、チューリン本人よりもずっと、この役に似つかわしい声だったと思う。

『近代能楽集』弱法師 三島の戯曲を蜷川が演出した舞台は、実際には見ていない。わたしの手元にあるのは、録音テープだけだ。
彼女の不可思議な声。その奇妙な温かさ。声にくるみ取られて、わたしはムンクの『少女』のような心持ちでそこにいた。

TVでも色々な役を彼女は演じていた。
恐ろしい役も多い反面、コミカルな役柄も多かった。
『御家人斬九郎』渡辺謙と母子を演じていた。
母・麻佐女どのは小鼓の名手で、グルメで、わがままで、息子をセッカンしたり、甘えたりする、可愛い女を演じていた。
このシリーズは大好きで、録画も残してある。

そして、作家・岸田今日子。
ユリイカで連載していた『もう一人のわたし』を読んでいて、衝撃を受けた。何に衝撃を受けたかは口に出来ないし、したくない。
この長編小説は、初期の近藤ようこの現代ものとも共通する、ある種のナマナマしさがあり、それを黙殺できない感性がわたしには、あった。
それが不幸なのか幸せなのかはわからない。

やがてわたしは友人から短編集『ラストショー』などを教わった。
そこから『いばら姫またはねむり姫』などを知り、『七匹目の仔山羊の話』『セニスィエンタの家』へと読み進んでいった。

<残酷>という言葉に美を感じるのは、岸田今日子の作品だけだった。
どの作品にも苦い結末が用意されている。
優しくやわらかな物語の中にも薄い毒が忍んでいたりする。
溺れる。
岸田今日子の紡ぐ物語に溺れて行く。
いくつもの悪夢が森の中で螺旋状に立ち上がっている。
選ぶことも出来ぬままそこへ入り込んで行く・・・
彼女の小説にはそんな魅力があった。


60代以降の彼女は仲良しさんの吉行和子・富士真奈美さんらと旅行や観劇を楽しまれていて、それがしばしば雑誌やTV番組で見られた。
いいなーと思った。とても楽しそう。
わたしはこんなおば様方になりたい、と憧れた。

まだまだ魔力も魅力も衰えぬひとだったのに・・・

これからは、残された彼女の作品を味わうしかないのだった。
つつしんでご冥福をお祈りします。


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コメント
追悼
こんばんは。

青島氏、岸田さん、中島氏。
一度に三人ものお悔やみの記事を
目にしたのは今日が初めてかもしれません。

合掌
2006/12/21(木) 00:49 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
残念です。。。
こんばんは。
独特の声と個性、ユーモアと色気、かわいらしさを兼ね備えた女優さんでしたね。圧倒的な存在感でした。
誰も岸田さんの代わりになれないと思います。
もっともっとご活躍してほしかったです。
御冥福をお祈り致します。
2006/12/21(木) 22:29 | URL | tanuki #JezSLo8M[ 編集]
☆Takさん こんばんは
本当にびっくりです。
岸田さんは『傷だらけの天使』を見て追悼しようと思っていますが、青島さんも中島さんも手元になかったので、ただただ合掌するばかりです。


★tanukiさん こんばんは
本当に個性の強い女優さんでした。
たぶん二度とこんなひとは現れないように思います。いくつになっても魅力的でした。写真で見たサロメのヴェールの踊りは妖艶でした。残念です。
2006/12/21(木) 22:37 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
知りませんでした。
岸田今日子さん、私はアニメのムーミンの声優ということで存じ上げておりました。

遊行さんがおっしゃる通り、声になんとなく怖ろしさがあるんですよね。

楽しい話をしていても、何か寂しさをかんじさせるトーンがあったのが印象的です。

心よりご冥福をお祈りしたいと思います。
2006/12/22(金) 12:51 | URL | むろぴい #-[ 編集]
むろぴいさん こんばんは
恐ろしさと共に深い優しさも感じられる声でしたね。
とても好きな女優さんだったので本当に残念です。
『傷だらけの天使』などでも存在感の強い役者だと思いました。
2006/12/23(土) 17:31 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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