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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

鈴木信太郎の絵

鈴木信太郎という名を聞いても知らない人だとしか言えなかった。
荻窪から八王子まで向かうのもつらいが、八王子からの帰還も遠い。
そこまでして行く価値はあるのか。
自問しながらも向かった。自答するのは見てからにする。
img654.jpg


チラシを見ると、緑が目に飛び込んでくるようだった。
一枚の絵だけで構成されているのではなく、何枚もの絵でそのチラシは構成されていた。
でも目に残るものは緑色、意識に刻まれるのも緑色だった。

既にこの展覧会は横浜そごうで開催されたと聞いている。
鈴木は八王子の豪商の子で、八王子に育ったそうだが、絵の所有の大半はそごう美術館と北里研究所である。
よくわからないが、行ってみよう。

わたしがこの八王子夢美術館に来るのは二度目、夏の安彦良和展以来。
何があるのかよくわからないが、チラシを見た限りではいい感じだ。
いい感じだから、ここまで来たのだ。
チラシ一枚で呼ばれることがたまにある。
そして大抵それはわたしをシアワセにしてくれた。
クリックしてくださいimg655-1.jpg


鈴木信太郎の修行時代、遍歴時代(ウィルヘルム・マイステルではないぞ)、稔り豊かな晩年と、生涯の作品が並んでいた。
展示壁いちめん緑色。
そんなイメージが目と意識に飛び込んで来た。

鈴木は足がよくなくて車椅子を使っていたため、視線が少し低かったそうだ。ローアングルの世界。しかしそれは小津安二郎とも共通する心の安寧が生み出される空間でもあった。
具合がよくなくても鈴木は旅行大好き人間で、朗らかな画家だったようだ。
それは作品を見ればすぐに感じることだ。
荻窪に長く住み、その庭を描いたものがある。ただしズームアップしたものと、一部を切り取ったものと二枚の作品なのである。
独立して見るのも無論楽しいが、二枚を並べて眺めると、なにやら不思議なシュールさを感じもする。
風景画は鈴木の見た風景を描いたものに違いないのだが、それは鈴木の主観に過ぎず、客観的な立場にあるわれわれが眺めると、どうも現実の風景ではないように思えるのだ。
決して破綻を来たしているわけではない。
はっきり言うと「楽しい」のだ、その作品を見ていると。

鈴木の風景画は見ていると、自然とにこにこしてしまうし、「ここへ行きたいな」と思わせる力がある。
ここで深呼吸すれば肺が緑色に染まるような気がするし、それが楽しく感じもするだろう。光合成したくなる絵なのだった。
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八王子の遊郭の一隅に孔雀を飼う家があり、それを写生した作品がある。
孔雀の羽が地と一体化して、一瞬こんな木があるのか、と思ってしまうような感じ。つまり孔雀のこちらを向いた顔も胴体も気にならず、その存在に後から気づくような描かれ方をしている。
近すぎてわからないのがなにやら妙に面白い。

八王子は江戸時代から独自の人形芝居を発展させている。
車人形である。以前NHKでわたしも見たが、文楽人形のような人形を、三人操りでなく一人で操る上、操者は車に座って人形を操っている。
民俗芸能である。
その人形を鈴木は描く。こちらは無論緑色は使われず、日本の江戸時代の着物・髪の色という規定に沿った色彩で構成されている。
リアリズムの絵画。
悪くないのだが、緑色の印象が強すぎて少しの違和感を覚える。

とても気に入った作品は曲馬団のゾウの曲芸である。
これは奈良で見た情景で、それを鈴木は緑色を使って描いている。
わたしは外国のサーカスの絵にはあまり関心が湧かないのだが、日本の曲馬団や見世物小屋を描いた作品は大好きである。
古賀春江の絶筆『サーカスの景』もそうだ。虎たちが曲芸をしている。
静かな不気味さも漂っているが、わたしはこの絵がとても好きなのだ。
そしてこの鈴木の曲馬団の絵。
どこかから喚声が聞こえてきそうだった。

奈良と言えば鈴木は老舗旅館・江戸三に宿泊しあちこちを描いて回ったそうだ。そう聞くと、小出楢重を思い出す。
小出も江戸三に宿泊して奈良を描いている。ただし彼はその後、木辻遊郭のそばの下宿に移り、そこでキョーフ体験を味わっているが。

鈴木の視線で描かれた奈良ホテルがある。
池のこちらから見た一番よい眺めかもしれない。
昔の奈良ホテルは皇族や政財界のお偉方しか泊まれなかった。
今は門戸も広くなった。

ナゾな作品がある。
昭和初期の銀座風景。アドバルーンがいっぱい飛んでいる。シュールな作品だと思った。静かで、そして何かを秘めている。
雨上がりの中途半端な曇天。そんな中に飛ぶバルーン・・・見た限り、そんなイメージがある。

それから瀬戸物屋や靴屋の風景。
同じ事物の繰り返しが楽しい。同一リズムの反復のようだ。音楽で言えばボレロや伊福部昭の曲想を思い出した。ただしあちらは拡大化するのだが、ここは店という枠内に収められている。

長崎の教会内部を描いた作品は、ステンドグラスの輝きがこちらにまで伝わってくる。こうした作品は絵画としてもよいが、建築物が好きな人にとっても、興味の湧くものだった。

人物画は少ない。風景画に比べて。
静物画もよかった。桃やブドウがとてもおいしそう。
魚がいっぱい打ち上げられた作品がある。『花と魚類』港に打ち置かれたのは、サバ、鯛、ヒラメ、こち、サザエなどなど。花はカーネーション。
これもちょっとシュールだ。しかし見ようによってはルソーみたいにも思える。
素朴派の末裔がここにいるわけか。
『金魚と青い本』に描かれたのは金魚鉢とルソーの画集だった。

どうしても可愛く見える作品が多い。
そのことについて本人はこんな言葉を残している。
「・・・ところでわたしの作品のリリシズムを人は言う。また童画風であり、稚拙な面白さと言うこともよく言われる。これはわたしの全く意図しないことだ」
あんまり嬉しくなかったようだ。
しかしこの言葉に表れているもの全てが、殆どのお客さんの感想なのも事実なのだ。
学芸員さんの解説で「プリミティブさは実感云々」とあるが、何も<意図しない>からと言ってリリシズムや童画風なのを否定するほどのことはないと思う。
作り手と見る側との齟齬はどうにもならない。

ところで鈴木は曽宮一念を尊敬していた。曽宮の作品は昨秋大阪の画廊で色々見ている。
印象深い絵があった。ピンク色の雲がそこに広がる絵。
その曽宮を評した鈴木の言葉がある。
曽宮は枯れかけたアネモネを絵にするような人で、それを取り上げての発言である。
「・・・見る影もない残骸になってから初めて画興が湧くという異常な制作欲にちょっと辟易していた」
どちらも併せて考えると、鈴木の作風が言葉だけでも理解できてくるような気がした。

話は変わり、鈴木は源氏ケイ太の本の装丁もよくしていた。三等重役シリーズ。お菓子のパッケージデザインもしている。それだけではない。銀座のとんかつ屋『珍豚美人』もデザインしている。これって確か澁澤龍彦が喜んでいたデザインではないか?
それから長崎の銘菓『クルス』img656.jpg

販売されていたので買う。わたしはこのクルスが元々好きなのだ。
薄くジンジャーを忍ばせたホワイトチョコをサンドした、ゴーフルの親戚みたいなお菓子。
展覧会もよかったが、このお土産がちょっと嬉しいのだ。
「来て良かったなー」

答えは出たのだった。
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コメント
遊行さん文章うまくなりましたね、僕は仕事で高校生の小論文も見ていますが90点は差し上げましょう/笑。
さて鈴木、そごうと比べて八王子の美術館は小さいので展示数に無理があるのではと推察されますがいかがでしたか?展示替えがあるのかなとー。
確かに低い視線からの絵が面白かったですね。
そごうではお菓子なんて売っていなかった気がしましたがー。

さてさて遊行さん、地元の美術館めぐりも再開されたのではと。
2007/01/18(木) 12:20 | URL | oki #-[ 編集]
okiさん こんにちは
高校生と比べて、ですか(笑)
て言うか、女の書く文ではないですね。

図録と参照したら結局全点ありましたよ。えらいもんです。がんばったなー。
お菓子はもう食べちゃった。おいしかったです♪
そごうもこんなときこそショーバイせなアカンのです。
実はこの展覧会の後にそごうに行きましたら、諸国名物展してましたが、売り子が全然だめ。売る気ないのかしら?
これでは何のための物産展かわからない。

週末に朝から晩まで京都にいます。
今週はまだ東京遺文。
2007/01/18(木) 12:45 | URL | 遊行 #-[ 編集]
鈴木信太郎はカラーリストとして、高い評価を受けた画家でした。緑や黄色、赤、青など原色を多く用い、見て元気のでる作品を数多く手がけましたね。遊行七恵さんのように、一人の画家について、これだけ豊かな文を書ける方は稀です。これからも、楽しみに読ませていただきます。
2007/01/21(日) 15:22 | URL | yuyu-museum #-[ 編集]
yuyu-museum さん こんにちは
過分のほめ言葉には照れます。
鈴木の明るいカラーは気持ちよいものでした。
絵を見ない人でもこの展覧会は楽しめるように思います。
明るい気持ちがやっぱり大事です。
2007/01/21(日) 17:33 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
はじめまして。鈴木信太郎で検索していたところこちらの記事にたどりつきました。私も遊行さんと同じくあのチラシに魅せられて八王子へ行ってきたクチです。同じような人がいたということを知ってちょっとうれしくなりました。

>ここで深呼吸すれば肺が緑色に染まるような気がするし、それが楽しく感じもするだろう。

まさにぴったりの表現ですね。すばらしいです。遊行さんのブログからはものすごい行動力とともに芸術を愛する気持ちがひたひたと伝わってきますね。これからも拝読させてください。
2007/02/05(月) 22:17 | URL | chat_noir #-[ 編集]
はじめまして
chat_noirさん こんばんは
あのチラシはよかったですよね、結局それに惹かれて(曳かれて
?)遠い八王子まで出かけましたもの。
本当にいい緑色でした。
昨日で会期終了でしたね。近ければもう一度見たいと思うような展覧会でした。

またぜひおいでください。
ところでカンケーないですが、わたしの家のニャンコはふたりとも黒猫ちゃんです♪
2007/02/05(月) 22:36 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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