東博で開催中の古代中国の文物を集めた『悠久の美』に出かけた。
慧眼の士のお供なので、おとなしく見学しようと思ったのも束の間、なんかわたし普段よりペラペラ喋ってるやないですか。
中国青銅器は元々大好きなので「おおっこやつ来てたんか」とばかりに見て回ったのですが、ついついお口が勝手にペラペラ動きましたわー。
全然知らないお客さんともなんだかんだと話し合ったりしてね。
実に楽しい展覧会でした。
夏・商・周と来て春秋戦国時代へつながる古代中国史。
商は一昔前まで殷と称されていた王朝。
十年位前に申し入れがあって商と呼び習わすようになったのだけど、わたしの意識には殷と刻まれてるからツライなーという感じ。
その時代から青銅器の凄いのがあるわけです。
ところでわたしが最初に殷周に関心を持ったのは小学生の頃、わたなべまさこのコミック『白狐あやかしの伝説』を読んでから。
『封神演義』でもお馴染みの金毛九尾の狐が女に化身して天竺マカダ国の斑足太子を皮切りに、殷の紂王、本朝の鳥羽帝をたぶらかし、国を滅ぼそうとする連作シリーズで、すごく心に残っている。
この狐の話はまたおくとして、その殷の青銅器にハマッたのだ。
それはやはり諸星大二郎のおかげだと思う。
『孔子暗黒伝』ここから饕餮への偏愛が生まれたのだよ。
わたしは自分のPCに饕餮を辞書登録してるけど、他のPCではどう見えるのかわからない。だからこの記事で文字化けしてたら、それがトウテツだと思おう。←アバウトやなー。

クリックするととんでもない顔とか出てくるのでした。
展覧会の会場にはこういうのがある。
斧鉞の鉞(えつ)。首切り用の鉞ですね、訓読みだとマサカリ(村田兆治か)。
「コンニチハ?」な顔がついている。ええセンスです。
こいつ。変にかわいいけど、こわい系。
それから何年前か三星堆から出土した出目な仮面。
出目と仮面と書けば、能面の出目家を思い出すけど、全然無関係。
本当に出目。裏から見たら金槌かなんぞでコンコンコーンッと打ってますね。ちょっと口元が中村敦夫風。
これは高島屋の展覧会に来ていた。
饕餮もセミも犠首も雷文も、楽しいのは殷まで。周から段々とシケてくる。カミサマとマツリゴトが分離し始めた証拠ですな。政教分離。
ところで古代のモダニズム発見。
彩陶罐(さいとうかん)。アールデコのイブニングドレスにこんなのがあったな。
でもこれは紀元前3000年前頃の遺物。キーボードで<あわわわ>と打ち変換すると3000になるけど、なんだか実感があるなぁ。
中国四千年の歴史、とか言うけど既にこんな時代にここまで洗練されていたのだし、享楽も恐怖も殷代に既に極限のものを味わっているのだから、今の世の中はある意味残滓みたいなものかもしれない・・・
河南省の殷墟にある婦好さんという人のお墓から色んな明器が出てきた。(冥土に行くけど明器なのだ)どう見てもゼンマイついてるようなヒトガタとかフクロウ型の尊とか色々。
どういう人だったのかは知らないが、発掘されなければ未来永劫そのままでいられたのかもしれない。
龍虎尊。ヒト、噛まれてます。これは安徽省から出土してるけど、泉屋博古館にある虎が人を噛む青銅器とはまた全然違っている。
作冊般げん げんの字が出ないけど要はカメです。いやむしろ鼈かもしれない。しかも矢に射抜かれている。緑青吹いててミドリガメみたい。
時代は下がって春秋戦国。
大尊缶 その名のとおり、めちゃくちゃ巨大な・・・これはなんと言うべきなのか要するに入れ物だけど、なんと300kgくらいの容量があるそうだ。
こわいわ。それでその外の柄がへんに可愛い。犬のコリコリというのか、ペットフードの行列みたいに見える。
玉璜(ぎょくこう)。これは装身具みたい。ところでこのタイトルを見ると『玉璜伝』という小説を思い出す。なのに作者が井上靖か武田泰淳かわからないのだ。思い出せない。
皮肉な物語だったが・・・
追記:武田泰淳でした。

いよいよ秦や前漢に来た。
そりゃ秦の始皇帝といえば兵馬俑ですね。その後の前漢にも俑はようさん作られましたね。
騎兵とか歩兵とかリアルです。
犀尊なんてウルトラリアリズムの造形に、柄だけシュールと言う代物で、変に感心したなー。
雁魚灯も面白かった。これは形だけならまるで道八とか保全が作りそうな感じもする。
出ました、金縷玉衣。何回目か忘れたが割りとよく見ている。最初はやっぱり諸星大二郎から教えてもらったのだが。でもこれを纏った死者がゆっくりと起き上がったりしたら・・・いややな。

雲南省はちょっと中央の文化からかけ離れているというかナンと言うか、特異な文明などが残っているらしい。エベレストより高い山が隠されているとか言う噂もあるしな。
そこから出土した五牛枕。字のとおり枕に五頭の牛がいる。寝るに寝れないぞ、この枕は。
古代は古代でも三国時代、北魏、南北朝、隋、唐と来ると、だいぶ文化も変わって来る。
オリーブ色の青磁羊、うまい表現の黒馬、ビザンチン風の首飾り(ラピスラズリがついている)、薫球(中に薫物を入れて、透かし彫りの隙間から香を漂わせる)などいいものが多かった。
実に面白いものが沢山あり、見応えがありました。
わたしはこういうの大好きだからいくらでも見ますよ。
ご機嫌さんで東京ツアーも終わるのでした。
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力のこもったレポート
じっくり読ませていただきました。
私も「炯眼の女史」とご一緒させていただいたので、浅薄な知識を補っていただき自分だけで観るよりはるかに楽しむことできました。
ここ見ているかもしれません。
この場をお借りして多謝・感謝。
>諸星大二郎のおかげだと思う。
入り方がこれまた何とも。。。
僕はもうすぐ始まるマオリ族のチケット持っていまして1/31にやはり「慧眼」の人とお会いしてみる予定。
今日は東京も冷えまして雪らしきものもちらちら。
遊行さんは京都でしたか今日。
今回は古代中国文物…!!
遊行さんの趣味の奥行きにいつもながらわくわくどきどきと感動してすっぽり
浸らせていただきました!
わたなべまさこのまんがは私もその昔読みました!なつかしい!!
殷が商になったなんて知らなかった…
遊行さんの文章を読んでいて
『五陵の年少 金糸の東
銀鞍白馬 春風を渡る』
の詩を本当に久しぶりに思い出し
ました。
遊行さんのブログは私の頭の奥底に
眠っていた懐かしい思い出を
ふと甦らせてくれるのです。
世の中には色んな方々がおられるもんですね。わたしはタイトル通りのヒトですが。
諸星大二郎は小学校のときから大好きです。文化人類学と中国青銅器・中国古代史へののめりこみは諸星を先達としてからのことです。
こう書いててもワクワクしてきます♪
☆okiさん こんばんは
ナゾのヒトと言うことで(笑)。
ニュージーランド大好きです♪
ポリネシア系も諸星大二郎からですよー、わたしは。
『マッドメン』。大阪の民博にあるポリネシア・ミクロネシアの展示を見たとき、思わず「マッドメンだー」と唸りましたね。また関西には多いんです、青銅器もポリネシア系の遺物も。
☆今日は朝から夜まで京都でした。
近代美術館―京都市美術館―京博―えき美術館―文化博物館・・・。
大寒なのかオオサムなのか知りませんが、ホンマに京都はさむぅございました。
おおーやっぱり『白狐』にひっかかってくれましたか!
『少年行』ですね、大好きな詩です。
色のイメージがあふれた作品で、いかにも唐代の遊楽気分がにじんでてよいですねー。
今九州国立博物館はプライスコレクションですね。やっぱり九州行きたいな・・・
私は、本日は埼玉県近美と永青文庫に行って来ました。埼玉県近美(エコール・ド・パリと日本の画家たち)には蕗谷虹児がでていましたよ。
ところで、京近美の看板、どうでした?
正直言って遣唐使ナントカの二の舞になるんじゃという不安がするのですがお金を払うだけの価値がありますかね?
近代美術館は二つのルートで招待券請求中なので、昨日は朝日主催の富本に行った僕です。
そうそう遊行さんの入っておられる朝日のサービスはクラブA&Aとは違うのですか?
文化博物館は辰野の日銀ですね。
実は十年以前はこの界隈に住もうかと思うくらい、文化博物館に通い詰めでした。今は会員ではないですが。
>看板
なんかね、作業中で見れなかったのです。風のせいかしら・・・?
で、チラシもまだなかったのです。
☆okiさん こんばんは
これはあれです、好みがパカッッと分かれますからねー。わたしは普段から白鶴・泉屋・奈良博などで青銅器を偏愛してますし、なにより客観性がないので
難しいです。
朝日友の会です。また違うみたいですよ
殷(商)の時代頃の青銅器に見られる、あの隙間恐怖症のようなゴテゴテ紋様。たまらんです。神様が降臨していた頃の文化って熱くてクドくて、素敵。この展覧会でも私は青銅器をひたすら凝視してました。しあわせー。
秦の兵馬俑とか、唐三彩とかも、美しくできてはいるんですけど、青銅器を見たあとだと物足りない気持ちになります。綺麗すぎるのかな。
中国史、高校の時は嫌いでしたね。名前の区別がつかなくて(笑)。
でも、司馬遼太郎の「項羽と劉邦」と、安能務の「春秋戦国志」で中国史にはまりました。宮城谷昌光の、春秋戦国時代を扱った一連の作品は全部読んだと思います。で、最近、読みたい本がないんです。
封神演義は隋唐演義と並んで、ツン読状態で、読み切ってません。どっちも安能務のものを持っています。なんで、途中でやめたかは忘れました。また、読みだそうかと思う今日この頃です。
奈良博の一室が改装されて青銅器が展示された時は吃驚しました。寄贈品でしたっけ。もともと個人コレクションだったような。
来週は、いよいよ神泉でしょうか。1枚だけ入れ替えがありますよね。後期の方がよさそうな気がします。
明日は、元気があったら、東近美か東博に行って来ます。正月さぼったので、たまってます。なんで、こんなのに追いかけられなければならないのか、とも思いますが。行出すとキリがない。まぁ、運動のつもりで。
饕餮くんと仲良しさんですかー、嬉しいです。これはもう完全に好み分かれますが、わたしも饕餮くん大好きです♪
>青銅器を見たあとだと物足りない気持ちに
Me tooですよ!!同意同意!唐代なら唐代だけで見たほうが楽しいと思いますね。それと殷、唐、明のように文化の極限まで行って敵国に滅ぼされるようなのが好きです。未熟より爛熟です♪
ところで三月の歌舞伎座、千本桜の通しですね。想定外でした。
☆鼎さん こんばんは
わたしは幼児の頃に南篠範夫『燈台鬼』と手塚治虫『きりひと讃歌』で中国のグロテスクさに恐怖してから長い間避けてました。
でも諸星・横山光輝から中国に入り、パンダもいるし、で青銅器にいっちゃうわけです。
陳舜臣は読まれないのですか。
近代中国は生島治郎に尽きますが。
東博の猪可愛かったです。松林図はナゼか辻が花に見えました。
東近美、今の常設展示の評判がよいですね。でも都路華香もおススメです。
お久しぶりです。
URLが記載されていたので、今からそちらへ伺います。
充実のご感想、楽しく拝見させていただきました。
最後はちょっと駆け足気味な印象でしたが、
想像を絶するほどに古い文物からして見応えありましたよね。
点数も少なめですが、
むしろゆったりした気持ちで拝見出来ました。
それにしても「てん」が気になります。もう少し拝見したかったです。
>「てん」が気になります。もう少し拝見したかったです
書かれてましたねー、わたしもはろるどさんの記事にソヤソヤと思っていました。
西夏文明などでもそうですが、中国は中華文明以外の文明も大変発達していると思います。
そんな展覧会が観たいですけど、中国政府は出し渋るでしょうね。