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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

梅と桜 清澄と爛漫

大和文華館で『梅と桜 清澄と爛漫』を楽しんだ。

梅と桜はそれぞれ一枚看板の美女のようだ。
泉鏡花『風流線』にこんな台詞がある。
美人画を描けと言われてモデルに困る画家に向かっての言葉。
「姿なり、容色なり、梅と桜と違っても、見劣りのしねえ別嬪があったら立派なものが描けようぢゃねえか」
また岡本綺堂の作品にもタイトルは忘れだが、二人の麗人が「梅どの」「桜どの」と呼ばれるものがあった。
梅も桜もどちらが上と言うこともなく、美しい。

有田焼の『梅文大鉢』 堂々と立派に美しい。こんないい焼き物があるから、いよいよ梅を描く作品が増えたようにも思う。
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抱一とコラボレートする羊遊斎が、先人に倣っての名品を生んでいる。
光琳・乾山兄弟の実物は失われているが、ここにその後継者の手がある。
『螺鈿蒔絵梅文合子』
見事な出来栄え。梅香がここまで来るようだ。

『梅雀図六角筥』平福百穂 この箱は本当にかわいい。金箔・銀箔を四角いまま貼り交ぜて、そこに止まる雀を描く。梅の花が雀たちに優しい匂いを送るのを感じる。いい箱。
どこかおいしい和菓子屋さんがこの箱の版権を買わないか。この箱においしいお菓子をつめて、それを販売してほしい。そうすればおいしいお菓子を食べた後、この箱を大事に置いておく。中には何か可愛いものを詰めてみよう・・・

『清水裂』 明代の染織だが、正倉院にあるような図柄だった。(実際にはないのだが)
満開の梅に小鳥が飛び交うのはもっと後世の図像だが、花を咥える鹿などがそれを思わせる。
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鉄斎も梅を多く描いた。鉄斎は文人・儒者なので桜より梅派らしい。
『梅華図』花を華と表現するところにもそれを感じる。

中国は梅を愛しただけに、詩人にも梅のエピソードが多い。
『灞橋尋梅図』 孟浩然がロバに乗って梅を求めるエピソードが描かれている。ロバの耳が小さいので馬にも見える。梅の香に誘われてフラフラ・・・

仇英の『仕女図巻』は人気があり、世界のミュージアムに収められている。
ここにあるのは梅を楽しむ女たちと、奇岩を境に夏になったか、蓮を植えたプールに入り込む女たちの姿。春の図にはブランコに乗る姿もある。
仕女たちの身体を見ると、ルーカス・クラナッハの描いた女たちにも見える。未熟な美。そんな官能美がある。
二年前京博で仇英の『庭園図』を見た。なんとも言えず楽しげな宮廷サロン図だった。わたしはこうした作品が好きだ。表面上に現れない秘戯を妄想させるような愉しさがある。

朝鮮の螺鈿は可愛いものが多い。技法が日本とは少し違うらしい。
色々な技法があるから、国により手により、違いがあって楽しい。
『螺鈿梅月文合子』 満月でない月の下に開く梅の花。月下梅香図はなぜこんなにもよいのだろうか。
螺鈿なのに琥珀の色を地に持ち、そこに煌く梅。見事な造形だった。

民藝協会から出ていた『工藝』という本が並んでいた。芹沢介、棟方志功らの装丁で飾られた本。梅がそこかしこにある。梅の型は可愛いから、色々なものに使えるし、好まれる。いい感じ。


桜に移る。
国宝『寝覚物語絵巻』 そのうちの子供らが庭で遊ぶ図がある。
桜が咲き、金銀砂子が鏤められた見事な春の図。
物語は散逸し、見ることが出来る場面も少ない。
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王朝に入ると、日本独自の美意識が生まれてきて、そこで桜が好まれるようになる。
源氏物語。
伝土佐光吉の図帖と伝岩佐又兵衛の屏風。
それぞれ異なる場面を描いているが、人気の高い話をどうしても選ぶから、「ああここか」ということになる。若紫、明石、若菜上など。
又兵衛のは工房で制作されたようだが、金雲の型押しも綺麗で、人物たちの纏う装束の柄も細かい。豪華絢爛な屏風。
光吉のは詞書も綺麗で、砂子が優雅だった。

面白かったのは『忠信物語絵巻』 これは御曹司義経を守って死んでいった佐藤兄弟の後日譚。兄継信は屋島で義経を守って矢に射抜かれ、弟忠信は吉野で身代わりとして死ぬ。落ち延びた義経・弁慶主従は今の福島県まで来たところで、兄弟の母の老尼に出会う。阿弥陀堂があり、琵琶も置かれている。稚拙な絵だが、なんとも言えぬ良さがある。
わたしはこの佐藤兄弟のファンなので嬉しい。
何年前か東北の友人の車でその界隈をツアーしたが、ある村落に来ると石碑に『佐藤兄弟墓所』と言うのが立っている。
ここがそうか、と思ったとき、友人が停車した。道には鹿が死んでいた。
A「またか。この辺りには多いんだ、イノシシも時々あるよ」
B「料理屋に売るには女三人じゃ運ぶの無理やな」
C「埋めたるの無理かなー」
同時に三人がそんなことを口にした。
だから忘れられない。(誰が誰かは置いとくにして)

司馬江漢の落款のある(ちょっと嘘くさい)洋風画の『花鳥図』 この違和感ある絵がなんとなく楽しくも感じられる。

しかし実のところ、古美術は絵画より工芸品に目を瞠るものが多い。
有田焼の桜文、一閑張の棗、香炉など。
そのうちの『蒔絵枝垂桜柳文棗』が可愛い。これは別名<嵯峨棗>と呼ばれる種に分類される。枝垂桜や柳や藤など、枝の垂れ下がるものを描いた棗を<嵯峨棗>と総称する。嵯峨や御室の、と歌われた頃からの呼び名なのだろうか。

宗達『桜図』 墨絵なのだが、まるで花の影を描いたように思えた。
虚としての花。美しい時間は短く、影のようにはかなくもある・・・
そんなことを考える絵だった。
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梅と桜の美を楽しめる良い展覧会だった。
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コメント
梅は咲いたか、桜はまだかいな~♪というフレーズを思ってしまいます(笑)
今年はもう存分に梅を楽しむことができました。あとは桜の開花を待つばかりです。(^^)
以前は、どうしても桜ばかりに関心が行ってしまってましたが、年を重ねるごとに(笑)梅の花の魅力がだんだんわかってきたような気がします。
ホント、この二つの花は双璧ですね。
大和文華館、ずっと昔に行ったきりなので、また出かけてみたくなりました。(^^)
2007/03/15(木) 09:24 | URL | tanuki #s.Y3apRk[ 編集]
tanukuさん こんにちは
>年を重ねるごとに
笑と共に涙がそっと・・・。嗚呼、昭和生まれよ。
今日センバツの選手宣誓の少年が「平成生まれ初の」と言うのを聞いてガ~ンでしたよ。
気象庁の桜の開花のミスも発覚しましたが、大阪の通り抜け期間は早まったままです。
大和にも通り抜けにもお出かけくださいね。
2007/03/15(木) 14:25 | URL | 遊行 #-[ 編集]
遊行さんこんばんは。
梅も桜もどちらもいいですよね…
花の色もとても綺麗な。
>表面上に現れない秘戯を妄想させるような愉しさがある
この一文に私もいろいろ妄想してみました(笑)
すてきです、遊行さん。
2007/03/15(木) 23:19 | URL | ろこ #-[ 編集]
ろこさん こんばんは
ろこさんならひっかかってくれる一文だと思いました(笑)
こうなると、梅と桜の間にあるはずの桃がさみしいですね
2007/03/15(木) 23:52 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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