fc2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

逸翁が愛した名碗たち

最近、<名茶碗>を観る機会が多い。湯木、藤田、香雪、そして逸翁。
逸翁は近いので、いつも気軽に出かけるのだが、この日はやたら学生が多いのに驚いた。
みんな熱心に見たりメモを取ったりしているが、「楽しむ」ことはしていない。
学ぶのも大事だけど、器を眺め、再現された茶席を目で味わうのも大切なことですよ。
わたしは学生と少し距離を置いて眺めて歩いた。

mir027.jpg

昭和の大茶人・小林逸翁は自分の美の感性を大事にして、茶席の取り合わせにも独特の趣味を発揮した。
今回昭和30年6月7日の茶席を再現しているが、その二畳ばかりの空間に対峙して、あっ となった。
すごく、いい。
こんないいのは初めて。高校生の頃からここに通っているが、この再現された室礼でここまで「いい」と思ったのは初めて。
何がいいか。
まず軸がいい。竹林図だが、これが大きな軸で床の間からはみ出ているような広がりを見せている。
破格の美と言うのか、床の間が窓になり、そこから裏山の景色が見えるような構成になっている。
風、吹き渡る。
そんな快さがこの茶室にはある。
畳の高さまで膝を曲げ、自分がこの茶室にいる気持ちになってみると、意識がいよいよ冴え冴えと澄む。
狭い空間から広々とした空間が見える、それが心を涼しくする。
茶の湯のすばらしさがこの軸一本に集約されているような気がした。
描いたのは蕪村。

逸翁は自由な発想の人だから、菓子入れ等にも海外製の陶磁器やガラスを当てる。
それが初夏には目にも気持ちにも涼しく感じられる。
今回は可愛い鉢を見た。
小指の指紋のある部分の大きさのキャラたちをいっぱい貼り付けた器。天使たちの行進が周囲を巻いている。ケンカするのもいればそれを叱るのもいる。
地は薄いグリーンで、そこに不透明な白の貼り付け。葡萄もりんごもある。山羊もいる。可愛くて可愛くて。
ウェッジウッド。イギリスではこの鉢はどのように使われていたのだろう。茶器として使われていたのをこうした見たことで、それが最良に思える。
ぐるぐる見て回ろう。

茶器の種類にこだわらず、好きなものだけを見た。

やっぱりノンコウ、わたしの好きなのは。ノンコウの口べりは3mmだったが、長次郎のは6mmある。持ち重りして手首が裏返る危険があるわたし。

牡丹の花を見込みに描いた茶碗。花びらの感触が蘇るような。
mir027-1.jpg


逸翁は宝塚歌劇を創設して「清く正しく美しく」を標榜し、スミレの花を歌劇団の花にした。スミレの浮かぶ茶碗。これは防空壕にも入れられた。逸翁の愛情が器を歌劇団を守る。
出光では菖蒲の浮かぶ唐津を見ている。

逸翁の洒脱さ・粋(すい)さは命名にも発揮される。
『家光』という茶碗がある。mir027-2.jpg

見たところ金で綺麗な継が入っている赤絵である。
なにがどう『家光』なのかと思ったが、由来を読んで納得した。
「よく継ぐ」=徳川三代目をよく継いで磐石の世にした家光と、別々な破片を見事に継いだのとを掛けているのだ。なるほど。

銘と後世に付けられた歌とが素敵なのもある。
「足音も志野田の森に月さえ頭巾目深に白蔵主ゆく」狐の化けた白蔵主の後姿が見えるようだ。銘は『霜柱』。筒茶碗。

茶碗にわざと金を継ぐのはともかく、継がないと割れたままというのもある。
志野茶碗で随分継いだのがあるなぁと思ったら、逸翁が巧い銘をつけていた。『与三郎』 歌舞伎のお富さんの情人の切られ与三郎。
逸翁の狂歌もついている。
「源氏店 その白壁に戯れ書きの 浮名を誰に つげの横櫛」
うまいなぁ、こういうセンスが好きだ。

白釉鉄絵花文茶碗 可愛い花びら。
散ってゆくのかもしれないし、下向きに咲いているのかもしれない。
mir027-3.jpg


可愛い花柄の茶碗もある。祥瑞白花文青磁沓茶碗 下半分の祥瑞(染付)が可愛い。見込みは綺麗な青磁。

他にも乾山や木米、道八、保全ら作家のものや、斗々屋、伊羅保、三島などがあった。手触りのザリザリ感がニガテなのでこの辺りはあまり見なかった。
関連記事
スポンサーサイト



コメント
良く継いで「家光」、傷だらけの「与三郎」、
オマケに狂歌の「(告げ)柘植の横櫛」
Good job!と思わずハイタッチして抱き合いたく
なりますね。 楽しいなぁ♪
2007/05/28(月) 10:46 | URL | 山桜 #-[ 編集]
山桜さん こんにちは
やっぱり大茶人のこうしたセンスを学ばないといけないなと思うんですよ。
楽しいし、勿体無い。

利休以来そういうセンスが培われてきましたが、今ではオヤジギャグに成り果ててるのがアワレですよ~
2007/05/28(月) 13:39 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア