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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

藤原道長 千年前の夢

藤原道長と言えば「この世をば わが世とぞ思ふ望月の 欠けたることも なしと思へば」の歌が思い浮かぶか、宇治の平等院を思うかのどちらかだろう。(拵えたのは息子だが、この父あっての子である)
私が子供の頃、新聞小説で永井路子が道長の生涯を追った作品『この世をば』を連載していた。
その後再読していないが、ところどころ文章が思い出されたり、エピソードが蘇りもする。
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金峯山にその道長の埋めたお経があり、丁度千年経ったらしい。
タイムカプセルも数十年後には開かれるのだから、この催しもよい時期を迎えたのかもしれない。

とにかく末法思想がブームだった。
釈迦入滅後のいくつもの<時代>を経た後に来る終末幻想。
しかしどうも、それにあたふた怯えながらも、寺社詣でを楽しんでいたフシが見える。
女流文学も花開いたし、政治的にも道筋確定だし、色々な区切りの時代でもあったらしい。
そこのところを見てみたいと思った。
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最終日前日の朝早くなのにもう満員御礼。
善男善女なのか古美術好きなのか、やたらとお客さんが多い。
実は仏像がニガテなわたしだが、がんばって見て回った。

ニガテなのは仏像だけでなく、お経も書簡もニガテだった・・・
栄花物語、御堂関白記、金剛般若波羅蜜経・・・
虫食いもなにやら尊く見える。

文殊菩薩騎獅像と普賢菩薩騎象像の軸が並ぶ。どちらも北宋時代ので京都・清凉寺蔵。高校生くらいの子らが「なんで乗ってる動物違うんかなぁ」と言うのを聞いた。するときちんと横から説明する人がいる。関西の人間はコミュニケートが好きだ。
昔、文殊と普賢と薬師でモッくん・フッくん・ヤッくんの『シブ▲隊』と言うのを聞いて爆笑したことがある。フラチなわたしは絵の前でそんなことしか考えていない。

孔雀明王像があった。当然こちらは孔雀に乗る。仏画の孔雀は近代日本画のそれと違い、なかなか怖い目つきをしている。友人の家のお札が孔雀明王なのを思い出した。
蛇の天敵たる孔雀。馬琴の『美少年録』の挿絵に、孔雀と蛇たちが空中で縺れ合うように戦う情景があった。確か國貞だったと思う。
この孔雀も佛敵を蹴散らすだろう。

二枚ほど涅槃図が出ていたが、二世紀の時間差から、全く異なる作品に見えた。剥落が激しいからというだけではなくに。

とにかくあまりに展示品が多いのと、わたしの理解力が低いせいもあり、特別気になった作品のみ挙げてゆく。

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チラシ右下の『子嶋曼荼羅』の金剛界を見た。
わりと曼荼羅図は好きなので熱心に見たが、真ん中の図におや、と思った。仮に左上から横並びに123、456、789と数を打ったその5の端っこの図像処理が素敵だ。
曼荼羅だから製作の決まりはきちんとあるだろうが、それを措いても5は綺麗だ。
46789は花柄、12は輪の中の佛、3は小さな連円だが、5の端は四方それぞれに佛の肩から上が描かれている。まるでレースのような繊細さで。
なんとなく嬉しかった。
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先にあげたチラシの不動明王、あの実物に驚いた。
大変な大きさなのだ。チラシだけでは1mくらいかと思っていたがなんのなんの、大変大きい。博物館の中の大きい展示物を展示する室に鎮座ましましている。そして薄暗いスポットライトのせいで、影が白い壁に浮かび上がり・・・・・!剣も紐も失われていたが、大変にコワい系だった。

そしてその像の向かいに道長が埋めた経筒が。緑青を吹いているが下の文字は読める。元禄年間に土中から出されたようだ。その文字を写した拓本もある。
弥勒の世まで埋めていたかったろうが、七百年ほどで早くも開示されたお経のタイムカプセル。

その経筒は千年前に道長本人が金峯山に埋めに行ったそうだが、江戸時代の大峯山全図があった。これがなかなか面白い。大体が社寺境内図などはどれを見ても興味の惹かれるものばかりなのだ。これもそう。頭を上げ下げして、道を目で追った。
大峯々中秘密絵というのが山中の櫻本坊に伝わっている。
ところで道長ご一行様のツアーは「祇園」という宿舎に泊まったそうだ。大峰山は確か女人禁制なのでこの地図を見て勝手に想像するだけだが、見るからに大変そうな山だった。
知人の修験者さんは大峰山の山開きには、先祖代々立ち会うているそうで、そのときには手前まで女も登っていいとか聞いた。
誘われたが、根性ナシなので丁重にお断りした。

知恩院から『法然上人絵伝』が来ていた。
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この後アタマが多分、法然上人だろう。鏡花の作品にも「・・・法然アタマの」と言う形容詞がついたキャラたちがあちこち現れる。
頭頂が扁平。他にはそんな人のいない絵。
一遍は色黒、日蓮は立派な眉毛、と言うようにキャラ設定があるのだった。

それにしても集められた展示品の多くは地元関西に所蔵されているものが圧倒的に多い。当然のことではあるが、そのことを思うと、やはりこちらの社寺は今も活きているのだと実感する。

大楠公ゆかりの笠置を描いた『笠置曼荼羅図』
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山中にはもう実物はないが、摩崖佛の名残がある。小学校の林間学校以来、何度も行くハイキングの名所。案内猫の笠やんもいる。
この絵には猫はいない。

軒丸瓦・軒平瓦・鬼瓦もたくさん集まっていた。京都の和菓子屋さんではハクセンコウや焼き菓子に軒丸瓦を刻んだり象ったものがある。

『不動明王図像』鎌倉時代・醍醐寺 肉筆画というか、スケッチと言うか。線の動きに感心した。絵葉書にはこの首しかないが、全体もよく出来ていた。見るからに巧かった。
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平等院の雲中供養菩薩像も来ている。
平安時代最盛期を網羅しているのをはっきりと感じる。
大きな展覧会だと思った。

最後に『獅子吼菩薩』を挙げる。mir033.jpg

こちらは先のチラシ真ん中の観音のお仲間である。
獅子吼菩薩とは「獅子が吼えるように悟りについて説法する菩薩」とこの仏像の所蔵先・即成院では説明している。
このお寺ではお練もしているらしい。しかしそれは措くとして、このお顔はいい感じだ。
全体の作りもいい。手のきれいさにも感心した。
このお寺は泉涌寺山内にある。

今更だが、この展覧会の副題が「極めた栄華・願った浄土」だと言うのを<実感する>内容だったと思う。
弥勒の世、五十六億七千万年後まであの経筒は残るかもしれない。

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コメント
>文殊と普賢と薬師でモッくん・フッくん・ヤッくんの『シブ▲隊』
なるほどー!と笑いました^^
昔行ったことあります、宇治…
なんだか地名だけで雅な哀愁を感じたり。
現代の私たちは高見の見物のように
この時代の貴族の生き様を見るのですが、彼らは必死だったのでしょうね、いろいろと。政治的にも…!!
2007/05/27(日) 21:24 | URL | ろこ #-[ 編集]
最近、読んだ本。(最近といっても、3冊目以外はかなり前)
「天皇たちの孤独 玉座から見た王朝時代」角川選書
「殴り合う貴族たち 平安朝『裏』源氏物語」
「王朝貴族の悪だくみ 清少納言、『危機一髪』」
以上、柏書房。
筆者は、なぜか皆同じで(笑)、繁田信一氏。
別に、追っかけしているわけではない。

こんなのを読んでいると、「道長よ、金峯山にお経を埋めた所で、地獄行きだ」と、思ってしまいます。
雅な貴族も、ゴロつきと一緒です。

私が、行った時は、あまり混んではいませんでした。開門と同時にGoでした。
2007/05/27(日) 22:05 | URL | 鼎 #PgtEBqSc[ 編集]
☆ろこさん こんばんは
歴史好きなろこさんだけに、宇治を散策しながら様々な思いに胸を噛まれていたのでしょうね。
弟宮が兄の帝に入内する姫を奪ったお話とか・・・^^)
千年前も今も人間は(行動は別としても)考える先はあまり変わっていない気がしました。
弥勒の世からみれば千年二千年は大差ないようです。



☆鼎さん こんばんは
>「道長よ、金峯山にお経を埋めた所で、地獄行きだ」
・・・泣くと思いますよ、みッちゃん。
確か永井路子の小説のラストもそんな感じでした。
信仰も時代によってブームがあり、それを辿るのも面白いです。
往生要集で地獄ツアーのプランが立った時代ならではの面白味もありました。
2007/05/27(日) 23:54 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんな事で泣いてしまうみッちゃんじゃありません。
きっと「伽藍、1ダース寄進するので、そこんところをなんとか」と、お願いしているような気がします。
なんと言っても、「この世をば ・・・」の人ですから。

5月の関西の美術館・博物館が、ちょっとした宗教ブームなのは、なぜだろうと考えてしまいます。京博、奈良博、橿考研付属、近つ飛鳥・・・
2007/05/29(火) 01:37 | URL | 鼎 #PgtEBqSc[ 編集]
鼎さん こんにちは
手に五色の糸を巻いて仏像とつないでいたら、それだけで極楽ツアーの座席確保ですからねえ。
わたしは当分、宗教芸術よサラバ、です。
どうも宗教芸術にまみれると憂鬱になります。
憂き世より浮世です、ハイ。
2007/05/29(火) 09:57 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
ちょっと安心
こんばんは。
TBありがとうございました。

遊行さんにもちょっと苦手な分野があると知って安心?しました。

法隆寺の孔雀明王像は壮絶でした。
あれインパクトありすぎです。
この国の風土には馴染みません。
2007/05/29(火) 18:01 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
Takさん こんばんは
>この国の風土には馴染みません
なんとなく口を開くとビームとか出しそうな孔雀でしたね。
秘かにロプロスと呼んでいます。
(あの不動はポセイドンか、とツッコミを入れてくれる人、募集中)
2007/05/29(火) 22:05 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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