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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

ダ・ヴィンチの『受胎告知』を見る

受胎告知。
「めでたし、聖寵満ちみてる御方、主御身と共にまします。
御身は女のうちにて祝せられ給う」アヴェ・マリアより
mir058.jpg


遅ればせながらやっと東博のダヴィンチを見に行った。
チケットはokiさんからいただいたが、内心ギクッとした。
そう、わたし今回パスしようかと考えていたのです。
国立博物館友の会も期限切れたし、フィレンツェで見たし、混んでるし・・・
と3つの理屈をこねていたが、やっぱり行ってよかった。
行って絵を前にすると、<実感>がある。

実感。わたしの感じた、喜び。
マリアに天使がお告げに来る。受胎告知。
マリアの手は驚いているものの、表情は既にそれを受け入れている。
マリアの丸い頬、薄いまぶた、小さな口許。
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掌に収まりそうな幼ささえ感じるのに、最早昨日までの少女ではなくなっている。
それをダヴィンチは描いている。

チラシやwebで見た限り、そこに関心がゆかなかったのに、実際目の当たりにすると強く眼を惹いたものがある。
マリアと天使の足元の草。
これはやはり間近で自分のナマの目で見ないとわからない。
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草は深い色をしている。
ところどころに白い小さな花が咲いている。
天使の影が差すあたりは草の色も濃く見える。
天使にも影があるのだ。リアルな肉体があるのをその絵で知る。
霊体だけではなく、影を生み出す重感がそこにある。
左手に持たれた白百合。その白さが際立つことがないのは何故だろう。
百合の白さより、足元に咲く野の花の白さに心がときめいてしまう。

天使が去った後、その踏まれた地の草花はどうなっているのだろう。
ダヴィンチの絵にはそんなことを考えさせる力がある。

マリアは本を読んでいた。
何を読んでいたかは知らない。二千年前の女の読む本ではなく、五百余年前の紙の本。オーパーツだということに意味はない。
マリアが静かに本を読んでいるところへガブリエルが現れたのだ。
百合をささげて、聖なる処女の身体を借りるという。
空っぽの身体、芽吹くもの、処女・懐胎。
緊張と怯えは他の画家が描くマリアたちより薄いようにも思う。
硬質な表情とはいえ、その唇がゆっくり開いてゆく様を想う。

ガブリエルの頭の下げ方は緩やかに優しい。
額から鼻へのラインが随分きれいだ。
mir057.jpg

ルネサンスの頃にはこうした顔立ちの人が実際にいたのかもしれない。
髪の一筋一筋を眼で確かめるわけにはいかなかったが、緩やかなウェーブが残像として意識に残る。

二人のまとう衣服の質感にも感心した。やはりこれも間近で見ないとわからないものだった。布の質感がリアルにそこにある。
ドレープが、ごわつきが、柔らかさが、風通しが。

間近で見て素敵、と思ったものがもう一つある。マリアの書見台。
これはこの時代に実際作られた石棺か何かの意匠をそのまま転じたそうだが、見応えがあった。わたしは近代建築が好きなのでこれまで洋風建築の意匠を色々見てきたが、これはとてもよかった。
コリント式とイオニア式とシェルまで併せた素敵な意匠。
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ルネサンスは古代回帰を謳ったので、こうした古代ギリシャ・ローマ風の様式が流行した。それがこんなところにもある。

やはり見に来てよかった。思えばウフィッツイで見てから十年が過ぎていた。その間にわたしも多少の知識が増えている。
大混雑だったが、かなり楽しむことができ、来れたことを感謝した。


ところで平成館の展示だが、巨大な馬の足と可愛いライオンと、少年イエスの彫像はマジメに見たが、それ以外はあまりきちんと眺めなかった。
人が溢れていたので簡単にサラバした。
惜しいといえば惜しいが、大勢の子供さんが歓声を上げるのを聞くだけで、なんとなく満足したのも事実だ。
'97に大丸でダヴィンチ美術館の所蔵品展があった。
『科学者レオナルドの機械模型展』
それを思い出している。だから翼の模型など懐かしかった。

その後は速やかに常設展示へ向かっていった。

マリアの御手。mir059.jpg
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コメント
nice!
TBありがとうございまいした。
遊行七恵さんも堪能されたようで何よりです。
レオナルドの「受胎告知」、やはり本物は違いますね。
「天使の影」に注目されるとは、流石です。とても興味深く拝見しました。羽といい、影といい、科学者レオナルドの本領が発揮されていると思います。
>その後は速やかに常設展示へ向かっていった。
上村松園の「焔」は、素敵な作品ですね。
TBが上手く行かなかったようなので、日を改めて再挑戦させていただきます。
2007/06/12(火) 21:17 | URL | lapis #e8.b9ePc[ 編集]
lapisさん こんばんは
やはり実際に目の当たりにして、初めてわかるものってありますね。
言えば物語の一部を描いているのに、細部のリアリズムが絵画世界を支えていて、それが揺ぎ無い力となってこちらに迫ってくるようでした。
気合が入りましたよ、よかったです。
2007/06/12(火) 22:24 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
跪く受胎告知
こんばんは。
今月もパワフルな遊行さま、ご無事にご帰還なによりです。
今日上野駅で、ダ・ヴィンチ展30分待ちの案内が出ていました。
いよいよラストスパートに入った感じです。
ん、でもやっぱり本物のパワーは、本物の前に行くしかないって感じでしたね。
あの時代に熱狂しました。
でも、わからないことだらけで、不勉強を呪います。
受胎告知物の最高傑作一番!だと思いました。
2007/06/12(火) 23:08 | URL | あべまつ #-[ 編集]
こんばんは。
TBありがとうございました。

遊行さんからTBいただいて、
もうワクワクしてしまって一目散にこちらに来てしまいました。

この受胎告知とは初対面ではなかったのですね。やっぱり遊行さんのレビューはおもしろい。
マリアの書見台がこんなに素敵な装飾だったなんて今あらためて感動しました。目からウロコな部分が多いです。

同じ絵を見るのも、そのときどきによって違う感動があるものなんですね。

2007/06/13(水) 00:15 | URL | marimo #-[ 編集]
☆あべまつさん こんにちは
やはり人気ですね、ラストスパートかかったみたいです。
なんというか、<ルネサンス>の言葉本来の意味を堪能しました。
才能全てを発揮する時代にダ・ヴィンチが生まれていたことは、天の采配以上のものを感じます。

久しぶりに実物のよさを味わいました。最近は複製技術にうなってばかりでしたが、やはり本物は違いますね。


☆marimoさん こんにちは
ウフィツィで見たときよりずっと良かったです。わたしは現地主義なので向うの方がいいだろうと思ってましたが、日本の技術のすばらしさにうなりました。これが作品の美を支えているのかもしれない、と思いました。

<祝福>はガブリエルからマリアにだけでなく、この絵を見たわたしたち全員にも与えられたようです。
2007/06/13(水) 13:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
2枚目の画像のマリアさま、今まで見たものの中で、一番美しく感じます。よいものをみせていただきました。
2007/06/13(水) 19:12 | URL | yuyu-museum #fMLSgI0Y[ 編集]
yuyu-museum さん こんばんは
このマリアは本当に綺麗でした。
チラシより実物の方が遥かにいい、と思ったのは久しぶりです。
たいへん感銘を受けました。
2007/06/13(水) 20:54 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんばんは
再度TBを試みたのですが、何故か上手く行かないようです。失礼とは思いますが、こちらにURLをのせさせていただきます。
http://blog.so-net.ne.jp/lapis/2007-05-08

FC2ブログとSo-net blogの相性は、いまひとつのようで、とても残念です。
今回は、申し訳ありませんでした。
2007/06/14(木) 21:05 | URL | lapis #e8.b9ePc[ 編集]
lapisさん こんばんは
なにやら相性がよくないのが残念ですが、こうしてURLつけていただき嬉しいです。
こんなところでなんですが、クシャナをリストに挙げたの私です。
ふと思ったのですが、この絵を見たとして、ナウシカよりもクシャナの方が深く心を動かされるのでは、と感じました。
2007/06/14(木) 21:48 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんにちは。
TBありがとうございました。

やっぱり観ておいて正解ですよね。
イタリアとはまるっきり違って観えました。

今月号の「芸術新潮」が特集しているのを読むと見逃している点が多くあってまだまだまだまだな感じです。
猛省。
2007/06/15(金) 11:56 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
Takさん こんにちは
いよいよグラン・フィナーレを迎える今になって、そんな特集を組まれると「つらい~」です。
やっぱりメヂカラを鍛えないとアカンなぁと実感します。
ちょっと今度からは西洋のオールドマスターも学ぼうと思います。
2007/06/15(金) 13:20 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
終わっちゃいましたね。
遊行さん、こんばんは
遅ればせながらTBさせていただきました。
展覧会も終わり、「受胎告知」も今はフィレンツェへの帰途についたでしょうか?(まだ上野で色々チェック中かな?)
一枚の絵にこれだけ集中して見たのも、久方ぶりかもしれません。なかなかこういった経験もないでしょうね。
さぁ次、レオナルドの作品が見れるのはいつでしょうか?(それとも、こちらから出向いた方がいいのか…美を巡る旅は大変です。)
2007/06/19(火) 00:04 | URL | アイレ #-[ 編集]
アイレさん こんばんは
美をめぐる巡礼または美の使徒になってしまった以上は、至福と焦燥に駆られる日々を過ごさなくてはならないんでしょうね。

この展覧会は日本の技術力の高さを知る展覧会でもありました。
あのガラスのおかげで感銘が深まったのは確かです。
本当にすごかったですね、普段絵を見ない人も感動されてましたよ。
次はどんな大物が来てくれるのでしょうか・・・
2007/06/19(火) 00:15 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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