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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

武部本一郎 回顧展

武部本一郎の名を聞いても「・・・知らないな」と思っていたが、絵を見た途端「あっ」となる。
火星のプリンセス、英雄コナンシリーズの挿絵画家だった。
弥生美術館では武部の初めての回顧展が開かれている。
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弥生の会員であることに嬉しさと誇りを感じるのは、こんなときだ。挿絵は活きている。ナマモノと同じだ。次々に消費され大半は捨てられるか忘れられてしまうが、確実に人々の心の底に潜み続ける。そして何かの折にどうしようもないほど渇望する。
その渇きを救ってくれるのがこの弥生美術館なのだ。

武部は日本画家の子として生まれるが、父の死後は家庭に恵まれず放浪し、やがて紙芝居作者として絵を描き始める。
紙芝居の絵や挿絵には芸術性がない、と吐き捨てる向きもあろうが、大衆の心に活きているその意義は深い。理解出来ないものより、こうしたわかりやすいものの方が私は好きだ。
さてその紙芝居は「南極探検」「山嵐」(柔道している)「海の鷹シーホーク」(そんな映画もありました・ノーチラス号の名がこの紙芝居に使われている)など・・・作品は使い回されるので褪色を防ぐためにラッカーが塗られているので、色は半世紀以上経っても鮮明だ。
(見世物小屋の絵看板師・静峯はラッカーではない何かを使って今も作品は鮮やかだが、何をしたのかわからない)
紙芝居と平行して絵物語を少年画報社の雑誌で連載し始めた。「月影四郎」シリーズ。少年柔道王。これが大変人気になり、仕事が舞い込み始めたらしい。

リアリズム作風なので(敗戦後GHQで肖像画を描いていた)偉人伝の仕事が多かったようで、並ぶ本を見て「あっ」ばかりだ。
偕成社、ポプラ社など児童文学の出版社から出ている懐かしい伝記シリーズ!
美少年な二宮金次郎、牧野富太郎、リンカーン、ライト兄弟、ディズニー(背景にはシンデレラ城とダンボが)、勝海舟、ガンジー、野口英世・・・おいおい・・・(涙)
‘60年代のポプラ社のシリーズは再話する作者も凄い。シューベルト(太田黒元雄)、キュリー夫人(山中峰太郎)、家康(二反長半)、二宮尊徳(池田宣政)、ナイチンゲール(吉田絃二郎)などなど。そういえば講談社のディズニー絵本の文もシバレンや壺井栄ら一流どころが担当していた。抄訳とは言え、彼ら文学者の味わいがそこここに滲んでいるのだ。

動物物も多い。椋鳩十の本が並ぶ。動物をリアルに描く画家といえば、樺島勝一、武部、薮内正幸らが思い浮かぶ・・・。
シートン動物記も武部の挿絵が多かった。狼王ロボ・・・シュウェル「黒馬物語」もあった。
なにしろこうした児童文学の挿絵は心に深く残るから、やっぱりよい作品が必要だ。
フランダースの犬、ロビンソン・クルーソー(猫を膝に乗せてるのがいい)、トム・ソーヤー、アンクル・トム、太平記、曽我兄弟・・・
シャラッと洒脱な線で大乱闘も描いている。
しかし胸を突き刺したのは、’79「ガラスのうさぎ」と「かわいそうなぞう」だ。・・・そうか、これらの挿絵も武部だったのか。つらくてつらくて泣きたくなる。戦争はイヤだ。

そしてホームズはこれまで色んな出版社から出ているので、武部の絵に記憶はないがルパンは違う。学校図書に並ぶルグランの怪盗ルパンのシリーズは武部だったのだ。うわーと言う感じ。他にいたお客さんもあちこちで「うわー」だったが、わたしの「うわー」は偉人伝とルパンとSFだ。
子供の頃のドキドキはこの人だったのだ!うわーの連続だ。

構図のうまさも光る。ノートルダムのせむし男の1シーンがいい。
夜、覆いかぶさるように聳えるノートルダムの下で大乱闘する人々。俯瞰する人々は手に手に鎌や松明を握り締め、緊迫感漂う情景が繰り広げられる。これは実にいい作品だった。
他に女の子向けのきれいで優しい作品もある。花物語シリーズ。マドンナ・リリーも親指姫もとても優美だ。「羊飼いの星」は知らぬ物語だが、少年が羊を抱いて宇宙へ(多分天へ)飛んで行くシーンがあり、なんとなく物語が予想される。
ふと見ると素晴らしく美しい青年がいる。野生な姿のジークフリート。
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親指の血が艶かしい。この作品にときめいたら、所蔵は中島Aだった。栗本ではなく中島というところにナマナマしい実感がある。腐女子の元祖だけに、目は鋭い。作家としては好きではないが、この人たちの努力で現在のBL全盛があるのだ。

美少年続きでもう一つ。「洞穴の双子の冒険」ルーシー・フィッチ・パーキンス。知らない、全く知らない、が、なんとときめくような野生の美少年で、しかも双子!完全にわたしの萌えではないか!
思わず心の中で「きゃーきゃー」だった。
あっ「ビーチャと学校友達」もこの人か!私は時々とても海外の児童文学が読みたくなるのだが、(基本的に翻訳の文体に好きなものが多い)ビーチャは面白かった。

そしていよいよ武部の本領発揮、ミステリーとSF作品への登場がある。
バロウズの作品の大方は武部の装丁と挿絵と口絵で占められている。
正直言うと、他の人が絵を描いたら「やめて」と思うくらいだ。
どういうわけか、私は海外文学は(児童向け・大人向け無関係に)翻訳・挿絵に強烈な嗜好の偏りがある。頑迷なほどに。
「飛ぶ教室」は高橋健二でないと絶対いやだし、絵もワルター・トリヤー以外は見たくない。「星の王子様」もやはり内藤濯でないといやだし、「水滸伝」は駒田信二が一番だ!
・・・ということで、いまだに「デューン砂の惑星」は石森章太郎(石ノ森ではない頃の)、「ノース・ウエスト・スミス」は松本零士、そして火星も金星も月もコナンも武部でないといやなのだった。

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金星の火の女神

原画の他に創元文庫が並ぶ。本の所蔵は全て加藤直之氏。おお、加藤直之だっ。銀河乞食が好きだっ。スペオペ大好き。
わたしは剣と魔法のヒロイックファンタジーはあんまり関心がないのだが、SFは好きだ。作者の名前を上げると大体の傾向が(わかる人には)わかってしまう。
火星シリーズは作品そのものも無論面白いのだが、武部の絵の魅力が強くて、それが見たさに開いていた時期もある。(しかし同じ火星なら私はレイ・ブラッドベリの火星年代記が・・・)
油彩による表紙・口絵もいいが、挿絵の墨によるペン画がいい。
今思えば、絵の本質は異なるものの、武部の挿絵・口絵の系譜は、クラッシャー・ジョウの頃の安彦良和が継いでいるのかもしれない。

「金星の魔法使い」この絵が素敵だった。サロメとヨカナーンの首の、対峙。そんな感じがする。これはそう見ても差し障りはないだろう。

おお、英雄コナンシリーズ。ハワードのシリーズ。前述したようにヒロイックファンタジーはあまり読まないのだが、コナンは何故か読んでいる。昔々アーノルド・シュワルツェネッガーがコナン・ザ・グレートという映画に出た頃に、熱心に読んでいた。丁度同時期、ケルト神話を背骨にしたクリスタルドラゴンに夢中だったせいもある。

ところでそのコナンの表紙原画にギョッ。わたしの持つ「狂戦士コナン」、コナンが磔にされて鷲だかハゲタカだかにつつかれてる絵だが、なんとよくよく見れば、そのつついてくる猛禽をコナンが噛んでるのだった。うーん、さすがコナン・・・
(現在コナンと言えば名探偵コナン君だろうが、わたしはまず未来少年コナンを思い、そしてこの英雄コナンを思うのだ)

日本SFにも武部は多くの作品を残していた。
ジュブナイルで言えば「なぞの転校生」など。わたしはこれらはNHK少年ドラマシリーズで熱心に見ていた。
怪談どくろが丘も武部か。そして半村良の『産霊山秘録』挿絵もまた。
・・・実に多岐に亙っている。感心するばかりだ。
タブローも少しあった。友人の子供真美ちゃんを描いたクレヨン画と、「古城夏雨」と題された噴水の素敵な作品(これはその真美ちゃんが所蔵している)、お祝い事があると知人友人に贈っていた作品も多い。
武部の追悼のためにSFマガジンは特集号を出していて、その表紙は加藤直之がオマージュとして「火星のプリンセス」を描いていた。
いつもながら弥生美術館にはただただ感謝する。ああ、楽しかった。ありがとう。
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コメント
コナンは未来少年
こんばんは。

懐かしい名前のオンパレードでSF少年だった頃を想いだしました。ヒロイック・ファンタジーのイラストなら今でも武部が浮かびます(私も中身のほうに関心はありませんが)。
コナンは名探偵ではなく未来少年です(きっぱり)。

行こうか迷っていたのですが、懐かしの「伝記もの」の肖像画なんかを描いていたとなると、俄然確認しに行きたくなりました。「おおっ!」の連続になったりして。
2007/08/22(水) 20:28 | URL | キリル #pQfpZpjU[ 編集]
ラナーッ
キリルさん こんばんは
私は今でもコナンが宮崎アニメの最高傑作だと思います。(断言)

もう本当に「おおっ」ですよ、「えっこれもかっ」の連続でした。なんと言っても偉人伝にはビックリでした。
ぜひぜひお出かけください。
久しぶりに日本のSFを読もうと思いました。
2007/08/23(木) 23:08 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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