FC2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

美人二種 肉筆画とスチール写真と

今回二つの<美人展>を見た。一つはニューオータニ美術館の「肉筆浮世絵」の美人、もう一つはフィルムセンターの無声映画からトーキーに変わった頃に活躍した日本映画の女優たちのスチール写真を集めたもの。「トーキーと戦争の時代を中心に」
どちらもたいへん興味深く眺めた。一般に、美人の定義をあげることは難しい。だからそれについては何も書かない。
mir226.jpg

時代により偏向もある。
それを目の当たりにするのは、実は浮世絵である。
浮世絵はその時その時の風俗を鋭く切り取るから、需要側が喜ぶのが<その時の美人>なのだ。
絵師の個性・流派があるにしても、その枠組みから離れることは江戸の場合、案外少ない。
ニューオータニ美術館が誇る美人と言えば、舞踊図の四人組である。
類似の美人はサントリー美術館にもいるが、こちらの美人は屏風の中で適度な距離感を保ちながら活きている。評者によればサントリーコレクションの方が濃やかだというが、比較する必要はない。
彼女たちは首に襟巻き…とは言わぬが、ぬくそうな首元をしている。着物もなんとなく暖かそうな質感がある。首に布を巻くのは和装の場合、あまり見栄えのよくないもので、ショーバイが何かを推察させもする。

懐月堂一派からも二人美人が出ている。それぞれ作者は違うが、ふっくら豊かな頬に笑みを含んだ眼差し、派手な着物というスタイルに変わりはない。
宝永年間に活躍していたことを思い合わせると、なかなか面白いことがわかってくる。当たり前ではあるが、宝永は元禄の次の元号なのである。
元禄の名残が生きている。だからか衣裳から何から万事派手好みなところが残っているのだ。
とはいえ綱吉から綱豊(家宣)に代わり、吉宗も紀州の跡継ぎになり…という辺りから、完全に時代の移り変わりを知ることにもなる。
江戸時代と一括りに出来ぬ様式・風俗の差異が見て取れ、それがまた面白い。

『見立て紫式部』 机による女の図が好きだ。彼女は笑みを含んで机による。チラシ左から二人目。

菱川派の『月夜弾琴図』は秋の始めごろか、まだ蚊帳が吊られているが手水鉢の先には桔梗が見える。
女が蚊帳から大きく身を乗り出して琴を弾いている。蚊が入りますよ、とは言えないくらい秋なのだろう。

梅祐軒勝信 垂髪の女の着物には大きな文字と歌とが書かれている。
尾上、舟、夕などの文字が読み取れる。

宮川長春 芝居で名高い人々の絵が二点出ている。
『髪梳き十郎』 曽我十郎(兄)の髪を梳く女は愛人の大磯の虎御前か。ここの兄弟は兄・十郎には虎、弟・五郎には化粧坂(けわいざか)の少将という愛人がいるが、暴れん坊の五郎と、各地を経巡った(と伝承のある)虎御前が有名なので、ついうっかり五郎と虎というカップルかと思うが、実は違うのだ。

『小むらさき』 かむろらしき少女を一人連れている。小紫と言えば権八小紫だ。白井権八の愛人の遊女。ここには彼氏はいないが、彼女の視線は多分そちらへ向いている。権八と幡随院長兵衛の鈴が森の芝居も好きだが、思えば権八は世に現れた時点から殺人を繰り返すお尋ね者なのだった。

竹田春信『久米仙人』 洗濯する女の白い脛を見て雲から落ちる仙人のエピソードは、古来から好まれてきた。ここでは女はフルカラー、仙人は墨絵と言う対比が面白い。それにしても足の長い女だ。

春章『立姿美人図』 美人の裾で猫が遊んでいるが、この猫はなかなかきつい猫らしく、着物の柄に闘いを挑んでいる。ときどきこんな猫がいる。

作者不詳の『桜下男女図』の表装がいい。B Me Aなどと読めそうなアルファベットもどき文字が見える。かむろをつけた女は前帯で、寄り添う男は着流しに羽織の前髪つきだった。桜だけではない匂いの漂う絵だった。

暁斎の娘・暁翠の『地獄太夫』がある。父親のそれとは違い、こちらはおとなしそうな面立ちで、しかも明治の女らしい顔をしている。

其一『吉原大門図』 師弟揃って吉原に通っていただけに、リアルな情景である。太夫が男衆をつれて闊歩するのや、茶屋・山邑屋の店先の様子、按摩をする座頭などの姿が見える。冷やかしもいれば、帰る客もいて、嫖客の往来もにぎやかだった。

今回一番眼を惹いたのは『舟まんじゅう』図だった。
この舟まんじゅうの手には渋団扇がある。彼女は蝙蝠を見ている。客は取れたのだろうか。
これはまぁ最下層の私娼で、夜鷹はストリートガール、舟まんじゅうはリバーガールなのだった。
ここにいるお姐さんはちゃんと手ぬぐいを頭にかけている。

その細かい内訳を教えてくれたのは、井原西鶴大先生だった。
西鶴の『好色一代女』を原作にした溝口健二の傑作『西鶴一代女』は一種のレビューショーであり、ヒロインお春を演じた田中絹代は御所に仕える女官を振り出しに、大名の側室、商家のご新造、奥女中、淪落して夜鷹(上方では惣嫁と言う)、それも年降るごとにますます下降して、化け猫と呼ばれる最下位の私娼に成り果てる。やがて出家して尼僧になるが、それで心が安住することもないのだった。

前述したレビューショーと言う言葉には、裏づけがある。
この溝口健二の組に日本画家・甲斐庄楠音が加わったことで、衣裳も引き立ち、更にその時代考証も確かになった、それがここに表れている。
『西鶴一代女』に現れる女たちの衣裳は、甲斐庄の創作と時代考証の力で、見事なものに仕上がっている。まるで元禄頃の風俗画を見るようだ。
また、映画の中で伊東深水の美人画が現れるが、それは田中絹代の似せ絵として描かれたものだった。
(今回フィルムセンターの展示では、戦前の作品に現れた女優たちを特集したため、この『西鶴一代女』はでなかった)

かつての日本映画界は現代物も制作したが、時代劇がたいへん多かった。戦前は特にそうで、並ぶスチール写真でも日本髪を結う女優が多い。
彼女たちのスチール写真も大首絵の一種のようでもあり、なかなか見応えがある。

映像の中の女優たちは戦前に活躍した姿なので、最早現実感はない。戦後の日本映画黄金期に大活躍し、現代に至るまで知られている女優たちもいるが、大半は知らぬ女優ばかりである。世代的にも祖母の時代の女優である。80人ばかりのうち23人知っていた。
そんなに昔の日本女優に関心がない人でも「ああ」となるのは、田中絹代、原節子、山田五十鈴、京マチ子、高峰秀子、高杉早苗、高峰三枝子、清川虹子、森光子らか。
戦前から活躍し続けていることに驚いたりもする。
これが結局彼女らを映像の中の美人画にならしめているのだ。

描かれた美人と映像の美人と。二つの美人画を楽しめてなかなか幸せだった。
関連記事
スポンサーサイト



コメント
地獄太夫
最後にあった、地獄太夫は、河鍋暁斎ではなく、暁翠の
ものだったのですね。
てっきり、暁斎のものだとばかり思って見ていました。
どうりで、おとなしい絵だなぁと感じたわけです。
おかげさまで、過ちに気づきました。
感謝。
2007/08/27(月) 08:46 | URL | 一村雨 #-[ 編集]
美人画、大好きです。(^^)
現代で言えば、グラビアアイドルみたいな立場でしょうか?(笑)
このチラシの紫式部は江戸仕立てですか。やはり平安時代の固さがなくて、粋で色っぽいですね。この時代に源氏物語が書かれたなら、もっと短くなってたかも(笑)
2007/08/27(月) 21:23 | URL | tanuki #s.Y3apRk[ 編集]
遊行さん、こんばんは
TBのお返しが遅くなってすみません。
舟まんじゅうは怪しいおねいさんのことだったんですねφ(..)
きっとこのおねいさんはお客が取れなかったんだと思います。あのふんぞりかえった姿勢から、そう感じました。

で、私はやっぱり春草のしっとり美人が良いですね~
2007/08/27(月) 22:18 | URL | アイレ #YpLFnTR.[ 編集]
☆一村雨さん こんばんは
そう暁斎の娘の暁翆だったのです。
この人も北斎の娘・応為さん同様
『知る人ぞ知る』絵師ですが、
明治の匂いの濃い佳品を残しています。


☆tanukiさん こんばんは
種彦の『偽紫田舎源氏』はパロディではなく
本歌取りなんですが、これもけっこう長い(笑)。
江戸のイキ・上方のスイが流行を拵えたんやなーと実感です。
2007/08/27(月) 22:20 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
アイレさん こんばんは
あのふんぞり返りは「チッ」だったわけですね(笑)
春章の美人は猫との対比も良くて、いい絵でした。
受付で'03年の美人画展リーフレットをもらえて嬉しかったです。
2007/08/27(月) 22:36 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア