弥生美術館では常時高畠華宵の作品を入れ替えながら展示する。
今回は真夏の夜の夢と題して、魅惑の作品が並んでいる。
サロメ、異国の宵、熱国の夕・・・

文字の羅列を眺めてもときめくような何かがある。
庭園に造らせた蓮池を眺める妖艶なエジプトの王女、物思うオリエントの少女、九官鳥の籠を眺める少女は頭に巨大な羽根のついた被り物をし、豹の毛皮敷きでねそべっている。
銀鱗と題された絵では人魚の鱗が煌き、「踊る孔雀」はその孔雀の羽根を身につけた踊り子が笑っている。夏の花を描いたものも、百合・芙蓉・朝顔・月見草・ひまわりといずれも心惹かれる。大蛇に巻きつかれて、これと戦う少年の意地の張った顔つきもいい。
また夢二美術館では我が最愛のパラダイス双六が出迎えてくれたが、ここでは和の美を展開している。絵葉書、半襟、千代紙、浴衣などなど、デザイナーとしての夢二のよさが実感できる。美人画家としてもいいのだが、わたしは夢二のそうしたデザインセンスと童画が好きだ。むしろその方がいいかもしれない。
上村一夫の『菊坂ホテル』で面白い情景がある。夢二と谷崎は仲が良くないが秋のある日、墓場で酒盛りをする。菊池寛、芥川、斉藤茂吉、などがいる。
ホテルの娘も呼び出されて酒盛りに入ると、茂吉が知らん顔でそこに死体があるという。
見れば若い娘が真っ赤な彼岸花の中で横たわり、夢二の便箋で遺書を認めている。
夢二「あっ僕の便箋だ♪」菊池「よかったよかった」
芥川も夢二の便箋のファンで、谷崎も美人画よりデザインセンスの方がいいと言うが、その中身を見て今度は文面の批評を始める。途端、死んでいた娘が怒鳴る。
巧いエピソードだと思った。この作品には大正の匂いがする。
いかにもありえそうだった。

その夢二のデザインした雑誌の表紙とセノオ楽譜も壁いっぱいに並んでいる。
昔の歌のタイトルを眺めるだけで、なにやら浮き立つような思いがする。
わたしはやっぱり1920年代の夢に囚われているのだった。
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すてきですね…!!
囚われたまま、その想いのまま、ずっとずっと浸っていたいものです…そういう時間が早く欲しいです。
先日はありがとうございました。
あの時間はそれこそ夢の時間ですね。
またああした時間を共有したいです。