FC2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

絵本の国からコンニチハ

今年もまたボローニャ国際絵本原画展を見に行った。正倉院展とこのボローニャ絵本展とは学生の頃から欠かさず通っている。
毎年通うと馴染みの画家も生まれるし、展覧会全体の傾向も見えてくる。近年どうもちょっと好みから離れていたが、今年は久しぶりに本を買うくらい、たいへん充実していた・・・つまりわたしの好みに直球が来たのだ。
mir313.jpg

チラシはピノキオ。工房で忙しく働くオジさんを人形たちみんなが見守っている。
フランスのAルブッフ。
わたしは絵本原画に限っては、暗い夜の情景、薄暗い工房・寝室・森の奥深く・・・という作品が好きである。前回本を買ったのは’91、それ以来のときめきがあった。

mir314.jpg

チラシの裏に広がる作品のうち、左真ん中の黒マントの怪人物。手に細い糸をつけてその先に三日月をつれている。どきどきする作品だった。メキシコGパチェコ。

現代絵本原画を見ると、イタリア、フランス、ドイツ、チェコ、イランに特に素晴らしい作品を生み出す人が多いように思う。
そして面白いことに画家の個性だけでなく、その国民性が作品に現れる。
例えばドイツの『大きなお鍋』Cカールス 物語はドイツの民話から採られたので粉引き小屋が現れるのに不思議はないが、ハンバーグが出る。めちゃくちゃおいしそうなハンバーグ。ご当地料理だから当然なのだが、あまりにおいしそうでクラクラした。

今回一番惹かれたのはサンマリノ共和国のNチェッコリ『様々な少女たち』図録には五枚組の作品のうち二枚しか掲載されず、他に絵葉書に一枚あったが、わたしが特に気に入った鳥籠少女とねこの少女がないのが残念だった。
こちらはチョウチョの少女。mir315-1.jpg

他にクモのような少女と人魚たちがいるが、鳥籠少女はスカートが鳥籠で、そこに小鳥たちが飛んでいた。ねこの少女はねこ耳でワンピースを着ていて、両手に何本もの糸を握っている。糸の先にはネズミたちがずらずらっ。少女はネズミたちの女王のようにそこにいる。幼くとも不可思議な官能性を滲ませた少女たち。
こちらは三年前の作品で、やはり不可思議な官能性が静かな空間に佇んでいる。
mir315-2.jpg

ニコラ・チェッコリのサイトはこちら。
http://www.nicolettaceccoli.com/index.html

基本的にこのボローニャ絵本原画展は若手絵本作家の登竜門という位置づけにある。
五枚一組で、ノンフィクション・創作・民話の閾を超え、技法も自由で応募するシステムである。だからチェコのBIBブラティスラバ国際絵本原画展の方が本当を言えば格式は上なのだが、日本ではボローニャグラフィックの方が知られている。
安定した大家の作品も素敵だが、若手作家の新鮮さが楽しみだと言うこともある。

『クリスマスのテディ・ベア』フランスIシャテラール。テディ・ベアを作るねずみたち。働くネズミたちを笑うのは何者なのか。

『オムライス男爵』神野沙織 オムライスの中に住む気難しそうな男爵。アクリルとグァッシュで描かれている。太い線に濃い色調が楽しい。

数年前CGが主流になり、大変面白くない時期が続いたが、今はそこにも工夫が見られるようになった。やはりそうしたものだけに頼るのは楽しくない。

イタリア人と日本人のコラボ作品が楽しい。これはCG作品『浦島太郎』。日本の伝説も違う国の人が描けばこうなるのか、という面白い見本を見せてくれた。

イタリアSモッリ『赤ずきん』 春に赤ずきんばかり集めた展覧会に行き、大変興味深く思ったが、このモッリの作品を見て暗いときめきを覚えた。原作の赤ずきんは二種あり、共に女の子への危険の呼びかけという教条的側面もあったが、ここでの狼はむしろハンバート・ハンバートであり、赤ずきんは彼を振り回すロリータそのものなのである。特に狼がベッドにいるおばあさんの前に姿を見せる辺りは、ロリータの母親がハンバートを待っていた情景に似ている。しかもこの絵本は赤ずきんによる追想と言う体を取っている。
「十八歳で私は年老いた」とデュラスは言ったが、この赤ずきんは一体何歳でその台詞を口にするのだろうか。
mir318.jpg  mir319.jpg


健全にして凶悪な楽しい絵本を紹介する。『ガブリ』長野博 ヘビがビルをガブリ、ワニが大木をガブリ、ゾウが飛行機をガブリ。
・・・こういうの、子供の頃に見たかったなー。
mir315.jpg


『聖書』を現代風に描いた作品がある。イタリアFロッシン。アクリルと大変細かいペン画による、やや’60年代的世界観の『聖書』。丸いアタマの骸骨がコートを着て夜の裏町を行く。水浸しで、ビルの窓から水が溢れ、車も立ち往生、ストリートガールは怒鳴っている。

長野順子『行間幻想記』にときめいた。エッチングと手彩色による繊細な作品。
少年、洋風建築、地下室、階段、羊歯、ガラスボトル、本・・・
mir320.jpg

何もかも私の愛するものたち。
見ていて苦しくなるくらい、ときめいた。この世界に入り込めば現実への帰還が出来なくなるかもしれない。それがわかっているので、そっと離れた。

もうひとつ、ひどく心に残る作品がある。園田恵里『なにもきかないで』
英語の言葉の下に日本語が綴られる。短い会話。鉛筆画によるせつない世界。
夜中、バスはもうない。乗せてください、と手看板をあげるワニ。オートバイうさぎが止まってくれる。「噛んじゃいやだぜ」噛まない約束をして後部座席に乗せてもらうワニ。
かすかな彩色がパステルで行われる。それが微妙な光になる。
展示は五枚一組だが、絵本として刊行されているものもある。見にゆくと、刊行はされていないが美術館によるオリジナル絵本としてそこにあった。
mir315-3.jpg

急いで続きを見る。
飛行機に乗る。夜間飛行。(五時間遅れたあと真夜中にミラノへ飛んだときのことを思い出した)夜行列車に乗るワニ。お客が少ないから二席分に伸びる。前の席には眠る白熊。
そしてバクかアリクイらしき生きものがバス停にいる。
そこへもオートバイうさぎが通りかかる。彼はまたしても親切に声をかける。しかしアリクイ?は友達を待っていることを告げ、ありがとうと断る。
ワニがその前に立つ。ワニの旅は終わったらしい。
『なにもきかないで』Don’t Ask Why 静かにせつない物語の果てに、作者の直筆文字がある。「ありがとうございました」
ただただせつなかった。

他にもすばらしい作品が多かった。今年の絵本原画展は本当に見応えがあった。
今年は韓国にも巡回するらしい。
一方、今日のこのタイトルには理由がある。八月から丸二ヶ月の間にあと二つ絵本関係の展覧会を見ているのに、記事にしなかったのでそれを少しだけ挙げる。
『ありがとう!チョーさん 長新太展ナノヨ』
mir316.jpg

大丸で見たが、書きようがなかった。なぜかは説明しづらい。わたしにもわからないから。
いつもJALだがたまにANAに乗ると、長新太の不条理マンガが連載されていて、読むのが好きだった。同時期に片岡義男の『夏の姉を撮る』シリーズがあり、それにも惹かれていた。乗るたびに長新太と片岡義男のページだけ手元に残した。
長さんの膨大な作品群を前にして、わたしは何も考えることが出来なくなっていた。
もしかすると、それが長さんの魔術に掛かった証拠なのかもしれない。

また、これは絵本展ではないのだが、堀文子の展覧会に行き、意外なものをみつけた。
堀文子=花の画家、そのイメージがあるところへねこの絵を見つけた。
しかもボローニャ絵本展?出していたのか。ただしこの絵がそうかどうかは知らない。
しかし見ていてとても心が楽しくなった。
mir317-1.jpg

あばれるねこたち。mir317.jpg


サライで連載の野菜や花の絵も好きだが、意外なくらい、これら50年前のにゃんこたちに惹かれた。
またこのアリたちが可愛い。mir317-3.jpg

堀文子は「見たものしか描かない」画家だが、この作品は不思議な味わいがある。先ほど鳥籠少女のことを書いたが、こちらは言ってみれば鳥籠女性なのだった。スカートから頭上へ鳥籠が移動したのかもしれない・・・
私の妄想だが。mir317-2.jpg


絵本原画を見ると、いつも心が豊かになり、鎮まることが多い。内容に怖いものがあっても、妙な希望やときめきが湧いてくる。
いつまでも絵本原画展には通い続けたいと思っている。
関連記事
スポンサーサイト



コメント
毎回同じような感想で恐縮なんですが、これまた何という素晴らしさ。
というか、遊行さんがあげてくださった作品にたいしては文句なく満点花丸。
私のイラスト心のつぼに直球ではいりました。
もうちょっと多彩な語彙をあやつって感想かきたいですねえ。(苦笑)
作新がこんなにいろいろなのに。
ピノキオのポスターも欲しいもんだ!
2007/09/30(日) 06:16 | URL | OZ #-[ 編集]
OZさん こんにちは
>私のイラスト心のつぼに直球ではいりました。
おお同志よ・・・ハラショー!という気持ちです。今年は本当に素晴らしい作品が多くてそれこそ枚挙に暇がない状況でした。
ノンフィクション部門のリアル動物図鑑もすばらしかったのです。
あのピノキオはディズニーのそれと違い、完全に「巻き込まれ型キャラ」の様相を呈してました。いい感じでしたよ~~
2007/09/30(日) 11:34 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
ピノッキオ
生まれて初めて見たディズニーの映画、
ピノッキオ。
この映画がご紹介の絵のような暗隠摩訶不思議系の空気があったら!!
と外国版御伽草子にときめきました。
怪しい世界でこそ、美しいものが煌めくのです。
トキオ方面には巡回しないのかしらん。
イタリアの「赤ずきん」もとてもいい感じ!!
現物見たし!!!
国際子ども図書館などで展覧したらいいのに~~~★

2007/09/30(日) 12:14 | URL | あべまつ #-[ 編集]
nice!
遊行七恵さん、こんにちは
これは、素晴らしいです!
なかでもSモッリ『赤ずきん』と長野順子『行間幻想記』は、良いですね。
一目見るとクラッとくる作品だと思いました。
原画をなめるようにして眺めてみたいものです。
2007/09/30(日) 12:56 | URL | lapis #e8.b9ePc[ 編集]
赤ずきんの魅力
あべまつさん こんにちは
>トキオ方面には巡回しないのかしらん
うううううっ板橋区美術館で開催済みなのですよ~~(涙)西宮大谷は'70年代から・板橋は'80年代からボローニャ絵本展を開催しています。板橋は宣伝も慎ましいのですねぇ

>生まれて初めて見たディズニーの映画、
ピノッキオ。
わたしはダンボです。(I'mではない)
ピノキオは檜男と表記したくなる、木材の質感がありました。


lapisさん こんにちは
『行間幻想記』の少年、lapisさんのようだと勝手に妄想しております。
博物誌と美術書と魔法の書とが合体した一冊の本をめくる・・・そんな気がします。
『赤ずきん』は本当にクラクラしました。
少女の視線が狼に凶行を働かせた・・・
たぶん、間違いないと思いました。
少女にしか存在しない魔力なのでしょうね。
2007/09/30(日) 13:34 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
板橋は谷文晁の前がボローニャでしたね。
行った事はありませんが、毎年やっていて、売りの一つになっていると思います。

でも、こんなのもあります。
いたばしボローニャ子ども絵本館
http://www.city.itabashi.tokyo.jp/TOSYOKAN/ehonkan.htm

来年まで、これで我慢しましょう。
2007/09/30(日) 15:50 | URL | 鼎 #PgtEBqSc[ 編集]
東京は一日雨でした。
板橋で終了・・・・・・
ショックですが、致し方がない。クゥ~~!
韓国まで追っかけられないし。
武井武雄の世界もまたひっくり返したくなりました。
余談ですが、佐藤さとる、久しぶりに手に取りました。
2007/09/30(日) 18:07 | URL | あべまつ #-[ 編集]
鼎さん こんばんは
板橋はそれで子供さん・親御さんの支持を集めてますね。すごくいいことです。
この絵本館には行きたいけれど、なかなか難しいわたしです。
ありがとうございます。


あべまつさん こんばんは
そうなんです。鼎さんのご紹介ので宥めてくだされ;;
武井武雄・・・RRR。大好きです。近々特集組みたいです。佐藤さとる、最高です!何を読まれたのでしょうか。
2007/09/30(日) 21:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
ご近所の本屋には、「誰も知らない小さな国」がなく、「コロボックル童話集」「豆つぶほどの小さな犬」を仕入れてきました。
童話集は、短編ものが集まっていて、嬉しく、小さな国造りにワクワクです。
いずれ連作通さなければ、なりますまい。
・・と罠にはまる喜び。
幼時の思い出の扉が開きます。
RRRも楽しみに致します!
あれは、物語もさることながら、美術工芸本の世界でもありドキドキものです。
2007/10/01(月) 22:52 | URL | あべまつ #-[ 編集]
あべまつさん こんばんは
佐藤さとるのきらめきとRRRのきらめきとはまた違う種類ですが、どちらも本当にすばらしいです。
諏訪湖のほとりのイルフ童話館はまさにRRRの館です。
近ければ折々に通いたい、といつも思います。
2007/10/02(火) 00:01 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア