FC2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展

行くべきか行かざるべきか迷ったが、とらさんに推され、Takさんの「単眼鏡かオペラグラスを」の注意に頷いて、夜間開館に出向いた。
二回目の夜間開館日だからか、そんなに混雑もしていない。
わたしは中世西洋風俗画が苦手である。
なにがニガテかを最初に書く。
うがい・手洗いしたくなる空間、それを目の当たりにするのがニガテなのだ。
それだけの理由。
しかしそれで全てを括ってはいけない。
今回そのことを痛感した。

目的はミルクメイドを見ることだが、もう一つ自分なりの目標を立てた。
ねこと犬のチェック。描かれた犬猫を探すことにした。

メツー『ねこの朝食』
mir333-1.jpg

全体図でなく一部だけを挙げる。女の膝には魚の載った皿、片手にはパンが持たれ、膝にすがるねこに手で食べ物をあげる。このねこはアメショーみたいだが、この時期既にその種がいたかどうかは知らない。げじ柄ねこはなかなか甘えで、膝に取りすがりニャアと鳴いている。
卓上の花はチューリップか、mir333-2.jpg

暗い画面に襟と花の白さが目立っている。
メーツは他に『鰊売りの女』『食事する男女』などを描いている。なんとなくどれもこれも魚がおいしそうだ。水との縁が深いオランダならではなのかもしれない。

ネッチェル『子供の髪を梳く母のいる室内』 この暖かそうな家族の間にもねこがいる。
猫のいる日々はとうとい。幸せがそこにある。茶地に黒の斑猫が両手で玉遊びをする。

マース(派)『野菜市』 ビーグル犬らしきものがいる。オランダ絵画の犬はみんなビーグルなのだろうか、ステーン『二種類の遊び』ではビーグルが毛づくろいをしていた。

同じくステーン『酔っ払った男と女』では白地にキジの猫が見上げている。これが浮世絵ならちょっとしたあぶな絵だが、ここまでなにだと「ねこも心配してます」になる。
どうも掃除がニガテのわたしでも、この室内は掃除したくなる。

こっちの『オウムに餌をやる女、バックギャモンをする二人の男と、その他の人々』のうち「その他の人々」に目を向ける。男の子が膝に乗せた猫にごはんをあげようとしている。
mir332.jpg

ステーンと言う画家はねこもわんこも好きだったのか、それとも当時のオランダでは猫も犬も飼うことが多かったのか・・・もしそれなら、オランダとはいい国だなーと思う。

さてフェルメール『牛乳を注ぐ女』を見に行く。
ダ・ヴィンチ『受胎告知』の見学を思い出すが、時間帯のおかげか、そんなむごさはない。
mir333-4.jpg

裸眼で見た後、少し離れてオペラグラスを出す。グラス越しでも光がそこにあった。
光が、そこにあった。
窓からの光が室内に差し込んでいる。その光が部屋を照らし、光と影とを生み出している。
わかっていたはずのことが、こんなにも新鮮だったとは。
女の被り物の質感、黄色い服の下の胸のふくらみ、腰に巻いた青い布の感触・・・
油絵の具のヒビまでが煌いて見え、まるで貫入のようだった。
五種類の布それぞれの素材が違うことを改めて感じる。
赤楽のようなミルク壷と瑠璃釉をかけたようなデルフト窯、壁の下部のタイル。
17世紀オランダの民家にとって、ありふれた陶器たちにすぎないだろうが、それまでが愛しく思える。
またパンを入れた籠と壁にかけられた籠とは編み方も違うことを知り、そんなことが嬉しくなる。光の入り具合で金っけの色合いも変わる。
細々した<発見>が大きな喜びになる。
「世評が高いから名画なのは当然だ」ということでなく、素直な気持ちで「すばらしい作品を見た」と思う。見に来てよかった、本当に。

同時代の工芸品や楽器を見る。その時代の一部が再現されている。奥にはメイドのいないあの一隅が見える。古楽器は上野学園提供だという。この時代よりもう百年前の流行歌を私は知っているが、それを頭の中で流しながらその場を離れた。

18世紀以降の作品に目を向ける。
ラキー『台所にて』 椅子に座る女の子はこれはポメ犬?といる。奥さんが美人だ。女中も人柄の悪くなさそうな女。

ラウウェルス『井戸から水を汲む女』 高さのない流れの屋根の上にはねこが丸くなっている。井戸の傍らには息子らしき男の子がわんこをダッコしている。なんとなくこの家を見て『チャーリーとチョコレート工場』のチャーリーのあばら家を思い出した。

ホーレマンス二世『陽気な仲間たち』 これは娼家らしい。作者名もぴったりだ。(ベタ過ぎるゾ)二組だけでなく一人あぶれそうだがまさか・・・いや、きっと他にいるのだろう。

ヘンドリクス『室内で縫い物をする女』 目元かくれる白犬だが、これはあれか背中半分先は剃られているのか?こういう手の掛かることをするようなゆとりがあるわけか。
風俗画である以上、そこのところを読み取る必要もある。

19世紀後半になると、国の違いはあっても、わたしにはなんとなく安堵できる空間となる。
コルフ『ぼろ布の籠』 ピンクのシャツを着た女がなかなか綺麗だった。

ビスホップ『日の当る一隅』mir333.jpg

綺麗な女。少しラファエル前派風だと思う。年代もほぼ同じ。カーテンやテーブルクロスにそのことを感じる。顔立ちもややレイトンのそれのようだ。ここには最初から光は<存在するもの>として描かれている。
ミルクメイドのように光が注ぐことを実感できない。それでも女は窓辺により、縫い物をする。18世紀末、かつての栄光は最早訪れない・・・

マリス『台所』 二十歳でこんな作品を描けるのは、本当に素敵だ。背中を向けてしゃがむ女。ここにも光が窓から入り込んでいる。光は最早普遍的なものに変わった。
そんなことを感じる。

ヴァーイ『アムステルダムの孤児院の少女』 この服はお仕着せなのだろう。
少女は窓からの光で本を読む。百年前、文字は孤児院の少女にも読めるものになった。
窓の薄いカーテンがきれいだと思う。
mir333-3.jpg


オランダ映画で忘れられない作品が二本ある。
『さまよえる人々』と『キャラクター/孤独な肖像』である。
後者は20世紀初頭の父・母・息子それぞれの心の葛藤を描いた名作で、人間の孤独と言うものを深く考えさせられた。
そして『さまよえる人々』は説明の出来ない作品なのである。深く心に刻まれつつもひとに説明できない・したくない名品なのである。
これらの作品を見ていると、レンブラント、フェルメール、ブリューゲルらの絵画の伝統は、映画に引き継がれているように思われる。
フェルメールとの新鮮な出会いは、わたしと泰西名画との距離感を、少しばかり縮めてくれたようである。展覧会は12/17まで。行って本当によかった・・・

関連記事
スポンサーサイト



コメント
こんばんは。

行ってこられたんですね、国立新

牛乳を注ぐ女、珍しくモデルが中央に描かれている構図ですけど、左側の様々な書き込みに比べての、右側の空間が、いいバランスで緊張感が保たれていますよね。

フェルメールのブルー、この画像からもその美しさが伝わってきて、見たくて仕方なくなりました。
2007/10/10(水) 00:03 | URL | 紫 #-[ 編集]
こんばんは。

私もこの絵を実際に眼にするまで
どうしてこれがそれほど名画と称されるのか
理由がさっぱり分かりませんでした。
ところが絵の前に一歩立つだけで
その思いは一変。
圧倒的な美しさがこの絵にはあります。
2007/10/10(水) 17:37 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
チケット届きました。
遊行七恵様
本日、岡崎美術博物館のチケットしかと
受け取りました。
本当に、有難うございます。

しかと、見て参ります。ご報告は当方のブログにて。
まずは取り急ぎお礼まで。
2007/10/10(水) 21:26 | URL | meme #z8Ev11P6[ 編集]
名画を観て
理屈抜きで感動する。理由は分からないが、見ているだけで幸せになる。ミルクメイドはそういう名画の一つですね。それを共感された記事を読んで嬉しくなりました。
2007/10/10(水) 21:39 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
本物
こんばんは。
画像で知っている作品の本物をみると驚くことばかりですが、とくに《牛乳を注ぐ女》の本物感は圧倒的でした。
ほかの作品はさらっとみただけだったのですが、遊行さんが画像を載せた最後の2点なんて、とてもいいですね。やはり節穴でした。
2007/10/10(水) 22:26 | URL | キリル #-[ 編集]
ウロコの取れた眼には☆”
☆紫さん こんばんは
あの絵ってよく広告に右寄りと真ん中配置とどちらがいい?というのに使われていたのでビミョーな気持ちで向かったのですが、本物の美に圧倒されました。
こんなすばらしい作品とは思いもしませんでした。実物と印刷物との差異の激しさの強い作品でした。


☆Takさん こんばんは
今回、Takさんがフェルメールに純愛を捧げる理由が凄く納得できました。
まったくすばらしい作品です。
朝から昼にかけての光の存在をこんなにも感じた絵はありませんね。
殴られた気分です。
意識が変わりました。


☆memeさん
喜んでもらえ、よかったです。
洋の東西を問わず古美術への愛はますます募るばかりです。
うーん、ミルクメイドの青色・・・!!


☆とらさん こんばんは
本当に推されたおかげで意識が変わりました。ありがとうございます。
目の当たりにすることで生まれる感動、それがここにはありました。
なにがどうとかより、「すばらしい!」この一言に全てが込められてしまいますね。
見れて幸いです。


☆キリルさん こんばんは
この作品の美にはびっくりしました。
言えば女の人が台所か何かの一隅で牛乳を注いでる、それだけなんですが何故こんなにもすばらしいのか。背景に物語があろうがなかろうが無関係に、単品としてこの絵はすばらしい・・・うなるばかりです。
来た以上は他にも楽しみを見つけるのが得意なんです♪
2007/10/11(木) 21:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
金曜の夜間開館に行って来ました。
小ちゃくて、びっくりでした。『牛乳を注ぐ女』
しかも、遠距離鑑賞。
腹が減って、単眼鏡持つ手がふるえました。(笑)
そんなに混んでないのに、どこかの真似しなくてもねェ。
お役所的ですね。
2007/10/12(金) 23:19 | URL | 鼎 #-[ 編集]
こんばんは
まぁ備えあれば、で主催者側も色々と(笑)
絵の大きさは予め聞いていたので驚きませんでしたが、あんなにいいとは思いませんでした。そっちの方にびっくりです。

わたし某BECK'S CAFE グリルチキン&キノコサンド食べてから出かけましたよ。
なんかハマリました。
今度からミルクメイドとそのサンドとがアタマの中で合致しそうです。
2007/10/13(土) 00:05 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
遊行さん
こんばんは

ミルクメイドはよかったですね...

『さまよえる人々』は未見の映画です。
遊行さんの紹介を読んで、観たい気持ちが
高まってきました。今度、観てみようと思
います。
2007/10/13(土) 00:50 | URL | lysander #f8kCkkcg[ 編集]
lysanderさん こんばんは
『さまよえる人々』ぜひご覧になってください。わたしはハマリましたが、好悪の分かれる作品です。
しかしこの映画を見てフランドル地方の新教徒と旧教徒との対立などを実感できました。
いい作品でした。なんとも言えず不思議で。
2007/10/13(土) 01:09 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
遊行さんのブログを読んで、私も猫ウォッチングにはげみ
ましたが、「オウムに餌をやる女、バックギャモンをする
二人の男と、その他の人々」の猫は発見できませんでした。
そういえば、猫って風俗画では「好色」の寓意だそうですね。

ミルクメイドは双眼鏡で見ると、本当に貫入のように、ひびが
美しく感じられました。
2007/10/22(月) 06:07 | URL | 一村雨 #-[ 編集]
一村雨さん こんばんは
>猫って風俗画では「好色」の寓意
ほほーさすがオランダですね。(なにが「さすが」やねん?)
お隣のベルギーでは魔女祭というのがあり、そこでは猫も大活躍と言うことです。
泰西名画ではけっこう猫がいますね。
わたしのように猫好きな女は、それを見るだけでわけもなく嬉しくなります。

あの貫入のようなヒビが本当に衝撃的でした。とてつもなく綺麗な青でした。
2007/10/22(月) 21:38 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア