FC2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

福原信三と美術と資生堂

福原信三と美術と資生堂…このタイトルを見ただけで行く気になった世田谷美術館。
多分、多くの美術ブロガーの方はあんまりこの展覧会に注目されていないと思う。
しかしこの展覧会は、大正から昭和初期の近代美術史をみつめる内容なのだ。
mir365.jpg

福原信三は資生堂の二代目として父の代からの薬局を化粧品会社に転換させ、企業メセナの一環として資生堂ギャラリーで展覧会を行った。
また銀座の資生堂パーラーでソーダ、アイスクリーム、洋食などを提供した。
都市文化の担い手の一人だったのだ。
mir366.jpg


‘98年末に松涛美術館で「写真芸術の時代-大正期の都市散策者たち」と題した写真展が開催された。
mir363.jpg

同時期に東京都写真美術館では「仮想庭園」と言うほぼ同時代の作品を集めた展覧会を開催し、どちらも眺めたわたしは、すっかりゼラチン・シルバープリントに魅せられた。
その大正の都市散策者つまり『寫眞藝術』を主催したのが資生堂の福原信三らなのである。
それを知るおかげで、わたしはこの展覧会を楽しみに待ち、出向くや大いに愉しんだ。

当時、みたものたち。
版画・たばこのある風景 たばこと塩の博物館
山名文夫 目黒美術館
着物の美 目黒雅叙園
写真芸術の時代-大正期の都市散策者たち 松濤美術館
色絵の伊万里 戸栗美術館
イメージという魔術 東京都写真美術館
仮想庭園 東京都写真美術館
影?写像としての世界 東京都写真美術館
ラブズボディ-ヌード写真の近代化 東京都写真美術館
河野通勢-大正リアリズム 東京STギャラリー

それは’98.12.19と12.20のツアーだったが、当日わたしは風邪で体調が悪く、朦朧としたアタマと霞んだ目でいくつかの展覧会を見て回った。渋谷から目黒で一日目が終わったのに、ふたたび渋谷へ行き、そして恵比寿へ、というルートはどう考えても合理的ではない。
そうさせられたのは、今はなき雅叙園でそのチラシを見たからだった。
行かずにいられなかった。

チラシを手にしたわたしは熱さましのために雅叙園を望む橋の向こうにいた。
曇天の夕方、靄に包まれた時間、霞んだ目で見た目黒川と橋の美は、それこそゼラチン・シルバープリントの写真のようで、十年経った今ではいよいよ記憶の中で完全なる美として構築されている。
わたしは初めて松涛へ向かったのだ。
mir364.jpg


福原信三、弟の路草、大田黒元雄らの作品を愉しんでから十年後の今、再びそれらを目の当たりにする。
『巴里とセイヌ』・『西湖風景』・『松江風景』『布哇風景』・『光と其諧調』他に編著『武蔵野風物写真集』に掲載分がそこにある。
タイトルを視るだけでときめきが高まる。イメージは拡大化し、期待は増幅し、視界は銀灰色の世界に絞られる。
カラー写真には存在しない何か。
存分にときめき、深くため息をついた。

資生堂には様々なクリエイターが集った。
小村雪岱も資生堂に在籍したが、やはりなんと言っても山名文夫である。
山名の回顧展は目黒区美術館で開催されたが、(前出のそれである)当時図録がなく残念だった。
山名のモダンなセンスが資生堂のイメージを、より華やかにしたのは間違いないだろう。
mir362.jpg

これもチラシに呼ばれたのだ。mir361.jpg

今回は存分に山名の作品を楽しめた。無論資生堂の作品に限ってだが。

明治の昔、三越が橋口五葉や杉浦非水らのポスターで商業藝術の道を開いたと同じに、昭和のそれは資生堂の力が大きかったろう。
無論資生堂だけでなく、大阪の中山太陽堂(クラブコスメ)の芸術活動も決して忘れることは出来ない。
それについては後日別項をあげるが、昨春以来半期に一度ずつクラブコスメがその華やかな遺産を展覧してくれることは、本当に嬉しい。

福原信三の友人で洋画家の川島理一郎の作品とまともに向き合ったのは、今回が初めてだった。
栃木県立美術館に彼のコレクションがある。
http://www.art.pref.tochigi.jp/jp/exhibition/backnumber/020113-j.html
タブローの色彩感覚と画面構成に胸を衝かれる一方、絵日記の奇妙な味わいに意識が集中した。
エジプト壁画、アッシリアの文物、ナゾな道、温泉の吹き出そうな岩、食べたくなる果実たち…
クリックしてください。IMGP2539.jpg IMGP2540.jpg

絵と文とがまるで蛇行する道を追いかけっこするように綴られていて、とても魅力的だった。
わたしの近代日本洋画家・偏愛篇に川島を加えることにした。

他にも野島康三や梅原の作品がある。特に梅原の描いた『熱海 野島別荘』はとても好きな作品なので、嬉しかった。
IMGP2537.jpg


また、初めて知ったのは安孫子真人という画家だった。ソフトなパステルカラーの色調で裸婦を描く。裸婦の背景の室内などは重厚な色遣いをする。裸婦のいる風景でありながら、どこかシュールなものを感じさせる。
これらの作品が’40年だと言うことが、なんとなく怖い。
IMGP2536.jpg


絵画だけでなく陶芸では富本憲吉の作品があった。
赤地に銀の線が入った壷がとても綺麗だった。
IMGP2538.jpg

またここにも愛らしい小品がある。
去年富本憲吉展で見た可愛らしいブローチたち。それに似たものがここにもある。
それらは資生堂のノベルティか何かになったらしい。
http://yugyofromhere.blog8.fc2.com/blog-entry-595.html
資生堂ギャラリーの功績の大きさは、ここで個展を開いた作家たちの名を挙げるだけでも、想像がつく。
須田国太郎の第一回個展は資生堂ギャラリーだった。そこへ川口軌外と里見勝蔵が訪れたことから、須田が独立美術協会に入ることになったのだ。また、バレエ・リュスのために製作したゴンチャローヴァの作品もここで紹介されたが、それは日本に初めてロシア風のデザインを世に送り出す仕事でもあった。他にも山本丘人、岡鹿之助、牛島憲之、近年の人では舟越桂、蔡國強らもいた。蔡の爆発してる?作品が飾られていたが、妙なことを考えた。展示の壁を曲がるとすぐそこには化粧品が並んでいる。・・・Destruction and restoration work・・・?

こちらは二年前の出雲での資生堂の展覧会チラシ。
mir359.jpg mir360.jpg

とても素敵だと思う。行けなかったのが残念だった。

資生堂パーラーの開店当時のステンドグラスや食器などを見る。
レトロモダンな楽しさに溢れた、とても素敵な世界。近代工藝に関心のある方なら、こうした食器を見るのも楽しいだろう。
他に資生堂の得意客のためのノベルティなども見る。
花椿の意匠が可愛い。

展覧会は戦後の資生堂の仕事をも展示する。
先日なくなった世界的モデル山口小夜子のポスターを見た。その時代を射抜くキャッチコピーとモデルとのコラボレートで出来上がったポスターの中、ただ左目だけを映し出した鮮烈なポスター。妖艶な左目。30年前の作品と知っても、既に<時間>そのものが意味を持たなくなるほどの、凄まじい美。
このポスターの中に永遠に山口小夜子が生きている。
クリックすると囚われてしまう。IMGP2541.jpg

会場には他に資生堂がこれまで送り出してきた化粧瓶なども展示している。そのどれもがとても素敵だ。一つ一つがそれぞれの時代の証人でもある。

この展覧会は11/4まで。近ければもう一度通いたい展覧会だった。

関連記事
スポンサーサイト



コメント
ちょいと評判でしょう。
世田谷美術館は、企画が変わってますよね。
結構、遠いんです。駅からも遠いし。
案外、世田谷美術館→(三越)→東近美というコースが楽です。
土曜は既に予定があるから、日曜か・・・・
最近、朝、起きると面倒で、出かけるのが。
火縄銃の鉄砲玉だった頃が懐かしいです。
が、月末は、久々に火縄銃の鉄砲玉に復帰です。
新幹線、予約せねば。

資生堂パーラーの金缶、よく買ってました。
2007/10/17(水) 00:41 | URL | 鼎 #-[ 編集]
鼎さん こんばんは
>ちょいと評判でしょう。
それならいいんですが、なにしろ予定に挙げられていない・・・さみしー。

火縄銃の鉄砲のつき方ってけっこう忙しないんですよね。鉄砲大名の雑賀孫市はつき方を養成するのにけっこう大変だったでしょうね。
2007/10/17(水) 18:43 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
グラフィックアートから観た資生堂。
すごく面白いですね。
自分の記憶の最初のCMは資生堂。
秋の灯ともし頃のセピアに近い赤い光の都会の
景色の中をモデルたちが歩いているものでしたが、ほんとうにおしゃれで粋。
その後新人女優(今はそれなりに年季の入った女優とかですが)を起用して、BGMはヒットする、というパターンができあがったときは心底がっかりしたものでした。
あの頃はカルピスのCMも素敵なものがあったんですよねえ。
パターン化する前は。
2007/10/17(水) 21:40 | URL | OZ #-[ 編集]
OZさん こんばんは
昔のCMには本当に素敵なものが多かったです。今では心に残るものといえば、麦焼酎・二階堂の叙情的な<作品>だけです。

>BGMはヒットする
揺れる眼差し、薔薇より美しい、燃えろいい女・・・な・つ・か・し・い~~!!
最近のはちょっとどんなだったか思い出せません。
カルピスは♪ピピーピーピピー白い少女・・・が好きでした。
そろそろホットカルピスの季節です。
2007/10/17(水) 22:02 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
資生堂椿シリーズ・・・スマップの「Dear Woman」

カルピスはガイコクシリーズってのがあったんです。
とーっても素敵で、今年の6月に学生時代の友達がきて一緒に旅行したんですけど、クライネシャイデックでみました。そのカルピスの景色を!
懐かしかったぁ!!
ウン十年後にまさかその地にいるとは夢にも思いませんでした。
2007/10/18(木) 07:37 | URL | OZ #-[ 編集]
OZさん こんばんは
>ガイコクシリーズ
おおお?わたしのしらないシリーズです。
>クライネシャイデック
それはユングフラウに向かう途中の・・・
おおー素晴らしいですね!お友達もきっとカルピスのそのCM思い出されてたでしょうね!
わたしはカルピス子供劇場を思い出しました。ハイジ(これもスイスですね~)、フランダースの犬、ロッキーチャック、マルコ、ラスカル、アン・・・
ユングフラウに確か新田次郎顕彰碑があったような・・・ああ、スイス憧れてます。いいですねぇ~~♪
2007/10/18(木) 22:39 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
はじめまして。今日、アンティークの気楽なオークションで資生堂のノベリティを買いましたので気になり、検索してたどりつきました。こういう美術展があったら即行したいです。ご紹介ありがとうございます。

今までにもコンパクトの復刻版(山口さんの写真の上の物)や骨董店でも購入したことがあります。デザインに惹かれます。
よろしくお願いします。
2008/01/13(日) 20:40 | URL | hitomi #-[ 編集]
私も歌舞伎、映画、演劇、、美術展、、庭園、建築大好きです。
2008/01/13(日) 20:43 | URL | hitomi #-[ 編集]
hitomiさん はじめまして
丁度いま、銀座のシセイドウ・オブ・ギンザで香水壜などの展覧会が開催中です。見てきたところですが、たいへん綺麗でした。
バルビエ展と共に開催中です。

私と同じようなものがお好きなようで、とても嬉しいです。
また素敵な<なにか>があればぜひ教えてくださいね。
2008/01/13(日) 21:40 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
この展覧会の紹介記事が雑誌にあり、行きたいなと思いました。歌舞伎か何か、もう一つ見たいものがあれば飛んでいくのですが新幹線代が高くて。

バルビエも好きで以前、古本市の山から偶然、出てきて安く買うことが出来うれしかったです。
2008/01/15(火) 19:34 | URL | hitomi #-[ 編集]
私も年末にベルばら展観ました。その記事に投稿、TBしようと思いましたができませんのでここで失礼します。あの10分のダイジェストで泣けました。
2008/01/15(火) 19:39 | URL | hitomi #-[ 編集]
hitomiさん こんばんは
この展覧会は3月まで続きますから、よかったらよいお芝居に当たればお出かけをご一考(←資生堂の回し者か)。

アールデコはバルビエ、アールヌーヴォーはミュシャ。
彼らがいなくては成り立たないほどの存在感ですよね。
本を宝の山から見つけ出せたとは大ラッキーです。
やっぱり愛があるから、こんな幸運が来るんです。

ベルばらダイジェスト、とてもよい出来でした。
音楽もよかったです。
2008/01/15(火) 21:54 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメント、TBありがとうございます!
2008/01/16(水) 11:50 | URL | hitomi #-[ 編集]
安孫子真人
安孫子真人の裸婦は、良いですよね。

実は、私の母の伯父の作品です。

若くしてこの世を去りましたが、素晴らしい

作品を残してくれたと思います。
2008/11/15(土) 21:52 | URL | まるぺい #-[ 編集]
はじめまして
☆まるべいさん こんばんは
わぁ、お身内の方なんですね。
今回初めて作品を知りましたが、
とてもモダンでシャープで、
そしてシュールなオシャレさが
魅惑的でした。
戦前のモダニズムが身についていて、
見ていて気持ちよかったです。

他にどこかで見ることが出来るなら、
よかったらお教えください。
2008/11/15(土) 22:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
そうですか、ほめていただき嬉しいです。
母が言うには、20代で亡くなってしまった
ので、残した作品は少ないとの事ですが、
山形県米沢市のほうで、小さな美術館「きま
ぐれ美術館」というのがあり、それは私の
伯父が館主になっていて、そこに、少しだけ
飾られています。 私の伯父が、安孫子の
作品は全て管理してると思うので、連絡とっ
てみますね。 わかり次第、お知らせします
す。
2008/11/15(土) 23:09 | URL | まるぺい #-[ 編集]
☆まるべいさん こんばんは
ありがとうございます。今「気まぐれ美術館」のサイトを見ました。アットホームな感じですね。
正直申しますと、大阪から米沢はとても遠いので、行くのはなかなかムツカシイのですが、そうして教えてくださるお気持ちが、とても嬉しいです。

今、この展覧会の図録を出してきました。3点出ていました。複雑な組み合わせの背景色などがとても綺麗でした。
2008/11/16(日) 00:09 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
大阪の方でしたか。それでは行くのはなかなか難しいですね。
でもそうやって、亡くなってだいぶたつのにも関わらず、いろんな方に見ていただけて
興味を持っていただけるだけでも、本当に嬉しく思います。
もしいつか、米沢へ行ける機会がありましたら是非、お立ち寄りくださいね。
2008/11/16(日) 00:28 | URL | まるぺい #-[ 編集]
☆まるべいさん こんばんは
ありがとうございます。
米澤には他にも色々見どころや名物もあるので行きたいと思っています。
そのときには「気まぐれ美術館」を予約させてもらおうと思います。

戦前の夭折された画家の作品には、独特のきらめきがあるように思います。
煌きは一度は封じられますが、何十年か経ったときに、世に現れて輝きを取り戻すようです。
2008/11/16(日) 21:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア