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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

伊勢物語 雅と恋のかたちを楽しむ

伊勢物語絵。
源氏物語と並んで伊勢物語は、古美術の中でたいへん重要な地位をしめ、かつ愛されている。
泉州の久保惣記念美術館にはすばらしいコレクションがあるというだけでなく、今回全国の美術館・個人コレクションから優品を募って、素晴らしい展覧会を開いている。
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わたしが行った日は関西文化の日で、無料公開の恩恵を受けた。
とにかく行くのが遠い。北摂の人間には2時間仕事なのだが、それでも行く価値は大きい。
和泉中央からバスに揺られてたどりつくまでに長い長い塀が見える。
寺かと思ったら、それが久保惣の敷地を示す塀だったのだ。

そして門前には巨大な駐車場があり、そこも満杯。これは無料公開だけではないなと思ったら、丁度コンサートが始まる時間だった。
美術館でのコンサートと言えば大抵は西洋音楽系なのだが、いきなり邦楽なのにはびっくりした。
ちゃんと鼓も笛も太鼓も謡もいる。金屏風の前に。(金屏風はこういうときに使うものだ)
なかなかいい感じ。
新館でコンサートをしていたのでそちらから廻りだしたが、本館へ廻ることを勧められた。
本館へ行くのにこれが何分かかったか。
とにかく広大な敷地なので、大きな庭園を眺めながら向かうから、時間が意外なくらいかかるかかる。
間にホールまである。
ようやく本館にたどり着いたが、こちらがまたなかなか広い。
狭い大阪とは言え、泉州は大きいのだ。

何から書けばいいのかわからないくらい、多くの『伊勢物語絵』があった。
伊勢物語は「むかしおとこありけり」で始まるエピソードの連作物で、在原業平の遍歴を綴っている。無論それだけではなく、和歌の生まれゆく過程もそこにはあり、平安の人々の優雅な世界が垣間見えるような構成となっている。
これはやはり藤原定家がその編纂を行ったからだろう。
源氏物語はモデルと虚構を絡めているが、伊勢は実在人物が多く現れる、そこが関心の湧くところでもある。
しかしそれにしても改めて作品を眺めると、呆れるほど多くの遍歴がある。
その都度本気だったり機嫌の良いアフェアだったりするのだろうが、マメオくんなのには感心する。
しかしそのマメオ君もたまにポカをする。ポカやイヤミもあり、それがまた物語になる。

鎌倉時代の絵画の多くはここの所蔵品だが、江戸時代の工芸品にも見応えがある。
大和文華館、宮内庁三の丸尚蔵館、出光美術館、サントリー美術館などから名品がこれほど集まると、ただただ壮観。
目録を数えると、40近い団体からの出品である。個人はどれだけかわからないが。

俵屋宗達の伊勢物語色紙シリーズがある。『芥川』で女をおんぶする図は大和文華館の自慢の名品だが、それ以外の作品を見ていなかったので嬉しい。
主に個人蔵なので表装にもそれぞれこだわりがある。それを見るのも楽しい。
メモをつけていると知らない奥さんから質問が来たので、わかる範囲のことは話す。どういうわけかよく人に色んなことを訊かれる。
まごつかずに話すから、他の人も訊いて来る。それはそれで楽しくもある。

伊勢物語と言えば『筒井筒』『河内越え』『八つ橋』『武蔵野』『布引の滝』などがすぐに思い浮かぶが、『恋せじの禊』を見たのは初めてだった。
禊なので水べりに座して、白い御幣のようなものをひらひらさせている。ちゃんと拝んでも理性より欲望が強い。
結局破滅している。(しかし一旦都落ちすれば、復帰できるシステムが幕末まで続いていた。貴人だけでなく博徒に至るまで)

『蔦の細道』をモティーフにした工芸品などが眼を惹いた。硯道具、提重、目抜きなど。
モティーフは伊勢物語、技法は様々。それが楽しい。
江戸時代の写本に芥川があった。
女をおんぶして野っ原のあばら家に逃れるが、女は鬼にバリバリ喰われてしまう。
実のところこの事件は男の負け惜しみで、女はその兄に連れ戻されたのだった。
西洋には男が女を負う図はないように思う。
日本の男は女を負わねばならない。時には女の正体が鬼のこともあるが。

岩佐又兵衛の業平がいくつか。これは数年前の回顧展でも見ていた。
別れた女を久しぶりに訪ねると、女はその日別な男と結婚しようとしている。
男は去るが、女は彼を追ってとうとう血の涙を流して死んでゆく。
酷い話だ。

ここには出ていないが、著名な佐竹本三十六歌仙図の(在五の中将)在原朝臣業平の肖像は、湯木美術館にある。

惹かれた作品は多いが、中でもサントリー所蔵の貼り交ぜ屏風がたいへん良かった。
元の屏風は朝顔図で、その上に色紙をぺたぺた。こういうのも楽しいものだ。
今回は特別展なので各地からのコレクションをお借りしての展覧会だが、12月からは所蔵の源氏絵の展示が始まる。
源氏物語はフランスのサロン小説と共通する部分が多いので、こちらは向うの国でも読まれるだろうが、伊勢物語はどうだろう。
同じか…どちらも上流階級のラブアフェアを描いている。

行くのに苦労したが帰りはもっと苦労した。
バスの時間にはくれぐれも注意しなくてはならない。
駅前の天牛書店の古書コーナーにはミッシェル・トゥルニエ『魔王』があったが、惜しくも先客のものになった。くやしい…

大阪市内に戻ったのは既に四時前。ここから大和文華館に向かうことはちょっとやめて、大丸で遅めのティータイムを楽しんだ。
北摂の北端から泉州までは、やはり物理的な時間に多くを割かれてしまうのだった。
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コメント
うわ~♪伊勢物語!!
学校の授業で習った部分くらいしか知らないのですが、好きな物語です♪見たいな~。。。
こういう物語を読んでいると、ああ、私も千年早く生まれていたら、もっと色々な恋愛ができたかもしれないのに・・・なんて思ったりして(爆)
メモをとられている方は、美術関係のお仕事の方だろうと思われて、知識が豊富であることがバレちゃいますから(笑)遊行さんに聞けば色々教えてもらえる、という感じで皆さん集まってこられるんでしょうね。(^^)
この展覧会は、巡回はされないのでしょうか?移動おつかれさまでした。
2007/11/22(木) 11:55 | URL | tanuki #-[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2007/11/22(木) 15:29 | | #[ 編集]
☆tanukiさん こんばんは
>ああ、私も千年早く生まれていたら、もっと色々な恋愛ができたかもしれないのに
ニャハハハハ、ありうる~~と笑いつつ、恋愛も才能の一つなんだろうなと思いました。
どうもわたしはその才能が欠けていたようです。(アララ)
巡回はないようです、残念。
質問されると、色々考えるのでそのこと自体が楽しいです。新しい視点とか生まれますし。話すうちに思いがけない結論を得ることもあるので、やっぱりええですね。



2007/11/22(木) 22:30 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
はじめまして
☆――さん こんばんは
まず、ご教示ありがとうございます。
その中で『芥川』のことなのですが、わたしの書きようがまずかったようで、誤解を与えてしまったようですね。
つまり
>日本の男は女を負わねばならない。時には女の正体が鬼のこともあるが

これは『芥川』のことだけでなく、『茨木』や『大森彦七』を踏まえた文なのでした。
他にも『竹芝』の説話(檀一雄『光る道』の元ネタ)、坂口安吾『桜の森の満開の下』での男と女…全て負うた女が鬼に化身する状況なので、それを差してみたのです。

ちょっとわかりにくい比喩を入れて、ええかっこしぃな文を書いたのを反省します。
2007/11/22(木) 22:43 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
お世話になっております

居残り時間中にバックナンバーを遡上しつつ拝読しておりますが
このフルーツサンドウィッチ?にアイスティ?といい
別項のつまみ寿司(いつかこれ買って帰りたい!)といい
京都のお宅のお料理といい(鴨?がうまそう) この時間帯には
目の毒でもありご馳走でもある ああ・・・ うまく撮られましたな

久保惣さん 今は源氏物語展だそうですな 土佐光吉さん
この伊勢物語展も ううむ よかったようですな 
大坂 泉州 懐深しと存じます
(離れているようですが 出入り橋のきんつばも いつか試したい)
それでは ご自愛ご健筆を
2007/12/19(水) 20:25 | URL | TADDY K. #fjJSDZ0o[ 編集]
TADDY K.さん こんばんは
年末ダッシュですね。
がんばれ働きマン。
今日はわたしもちょいと居残りしました。

大丸もイノダもフルーツサンドがおいしいです。
なんか最近ハマッてますよ。

あのお寿司はですねーもぅホントにおいしいです。
一口サイズ極小ですが、すごく繊細で濃やかです。
ぜひご予約を。

久保惣は遠いけれど、行く価値はありますね。
しかし本当に遠かったです・・・
源氏絵、今度特集でも組みたいと思います~
2007/12/19(水) 21:04 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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